症例写真は、施術前後の違いを正確に伝えることがいちばんの目的ですが、正確でありながら、お客さま本来の美しさが伝わるような写真を撮影できるようになりたいものです。
加工はもちろんNGですが、機材をそろえてライティングのコツをつかめば、ワンランク上の施術写真が撮影できるようになります。
もくじ
症例写真でどのパーツを撮影するにも共通していえるのは、肌をきれいにみせると写真のクオリティがグンと上がるということです。
施術前後の比較だけを意識して撮影した症例写真より、肌がきれいに写るように意識して撮影した症例写真は、撮影されたお客さまにも喜ばれて、ほかのユーザーの目にもとまりやすくなる可能性があります。
症例写真で、施術前後の違いを正確に見せつつ、肌をきれいに撮影するためには、撮影したいものに当たる明かりを調整するライティングを工夫するとよいでしょう。
ライティングに必要な機材とセッティング方法は、最初は難しく感じるかもしれませんが慣れてしまえば簡単です。どのパーツも同じ機材とセッティング方法で撮影することができます。
基本的に、使用するカメラと同じメーカーの機材を使用することを推奨していますので、今回はカメラも機材もキャノンのもので紹介します。
1、ライトスタンド3本
2、トレーシングペーパー
3、ディフューザーアーム
4、スナップティルトヘッド
5、トランスミッター(キャノンの場合)
6、クリップオンストロボ(キャノンの場合)
7、Bクリップ
8、レフ板
ライトスタンドは、できれば2〜3個用意しておくと便利。カメラ専用の発光装置であるストロボを固定するのはもちろん、設置することで光がやわらかくなるトレーシングペーパーや、光を反射させて全体を明るくするレフ板を設置するときにも使用できます。
トレーシングペーパーをつかうと、光がやわらかくなって被写体に陰影がつき、肌がきれいに撮影できます。
トレーシングペーパーは家電量販店で入手できます。幅のサイズはいくつかありますが110㎝幅のトレーシングペーパーがおすすめで、1,000円程度です。
上半身の撮影なら1m、全身の撮影で2mほど使います。トレーシングペーパーは、一巻きで20mありますので、撮影で汚れたら新たに必要な分のトレーシングペーパーをカットして使用します。
撮影用のトレーシングペーパーのセッティングには、「ライトスタンド」「ディフーザーアーム」「Bクリップ」を使用します。ライトスタンドに取り付けたディフューザーアームにトレーシングペーパーを設置してBクリップで固定します。
スナップティルトヘッドは、ストロボをライトスタンドにセットするために使います。5,000円前後で購入できます。
クリップオンストロボ(外付けフラッシュ)と遠隔でストロボを発光させるトランスミッター(写真はキャノンの場合)が用意できるとベストです。
メーカーによって価格はまちまちですがクリップオンストロボが60,000円前後、トランスミッターは30,000円前後で購入できます。
クリップオンストロボは乾電池式なのでセッティングが手軽で、カメラに装着して使うこともできますし、ライトスタンドに固定して使うこともできます。
上の写真にあるクリップオンストロボのセッティングは、ライトスタンドに固定して使用し、シャッターを切ったときにストロボが光るように遠隔操作を行う方法のセッティングになります。
レフ板は、持ってくれる人がいない場合は、ライトスタンドに引っ掛けければOKです。
レフ板がない場合は、白い段ボールや白い布をライトスタンドに取り付けて代用することもできます。
被写体の立ち位置が、部屋の蛍光灯の真下になると顔に影が出来やすくなるので、蛍光灯の真下を避けて位置に立つ、または座ってもらうようにます。
数種類の絵の具を混ぜると色が濁るように、光の種類が複数あると正確な色になりません。そのため、極力ストロボの光だけで撮影するのが望ましいので、部屋に窓がある場合は、太陽光が入らないようにカーテンをしめましょう。
ライトスタンドに固定したクリップオンストロボを、被写体から約2m離し、被写体に陰影がついて立体的に見せることができる位置である斜め45度前方に設置します。被写体とストロボを2m離すことで光が拡散して、陰影が強くなりすぎません。
ストロボの高さは、撮影したいパーツの高さに合わせます。
ポイントは、ストロボを被写体の斜め45度前方から当てること。被写体にほどよく陰影がつくため、顔や体のパーツを立体的に撮影することができます。
もちろん、撮影する人の真横にライトスタンドを設置して撮影してもよいのですが、真横にライトがあると撮影で邪魔になったり、撮影者が影になってしまうこともあるので、斜め前方からストロボを当てる方法は撮影に慣れていない人にもおすすめです。
トレーシングペーパーをライトスタンドに取り付けて、被写体とストロボの中間に設置します。
ストロボと被写体の間にトレーシングペーパーを入れると、光がやわらかくなって被写体にほどよい陰影がつくので、肌もきれいに撮影できます。
これは天気のよい日にレースのカーテンを閉めると、部屋の中の光がやわらかくなるのと同じ原理です。
ストロボを設置した反対側にストロボ光を反射させて補助するレフ板を設置します。レフ板は被写体の横に置き、写真に写らないギリギリの位置まで被写体に近づけておきます。
カメラの難しい設定は不要です。カメラは「絞り優先オート」に設定し、ストロボは「自動調光モード」にすればOKです。メーカーによって多少異なりますが、「自動調光モード」にすると「E-TTL」「i-TTL」などの表記が出ます。
「自動調光モード」なら、カメラの絞りに連動してそれに見合う光の強さを自動で調整してくれます。
ズームレンズの焦点距離が50mmは、人間の目で見たイメージに近い写真が撮影できるのですが、症例写真で顔や体のパーツに寄って撮影するとゆがみが生じてしまうので、焦点距離70mm以上の中望遠で撮影するのがおすすめです。
顔のパーツを撮影する場合は、105mmくらいにするとよいでしょう。上記のセッティングは主に上半身向けのセッティング写真になります。
全身を撮る場合は、トレーシングペーパーの高さを2mほど(全身が収まる程度)にし、モデルとストロボの距離を1mほど離しましょう。
レフ板も写りこんでしまう場合は、写り込まない位置に離して調整してください。
撮りたいパーツによりライト、レフ板の距離を寄せたり離したりすることがポイントになります。
目元、鼻、口といったパーツのみを必要とする場合でも、顔全体を撮影して必要な部分をトリミングして使用するのがおすすめですが、トリミングする時間がないときなどパーツだけを撮影するときには以下に注意してみてください。
片目を撮影する場合は、ストロボを当てている側の目を撮影します。反対側の目を撮影すると鼻で影になってしまうので注意しましょう。
また、両目を撮影する時や鼻や口を撮影する時は、パーツに寄って撮ろうとすると、どうしても撮影者がライトの光をさえぎってしまうことがありますので注意してください。
光の当たる側と反対側で明暗差が発生しますので、可能な限りレフ板を被写体に近づけることで明暗差を少なくすることができます。レフ板は、通常白い面を被写体に向けますが、裏面の銀色の面を被写体に向けると、さらに明るくなるのでケースバイケースで使い分けでもよいでしょう。
お腹や胸、お尻など体のパーツを撮影するときは、少し陰影をつけたほうが立体感が出てわかりやすい写真になります。陰影をつけるには、被写体の横に設置したレフ板を、被写体から少し遠ざけて陰影のコントロールをします。テスト撮影をしてあまり変化がないようなら、レフ板は外してしまってもOKです。
横向きの写真を撮影する場合は、被写体にストロボを当てているほうを向いてもらいましょう。
これで、プロが撮影した写真に近い美しさで撮影することができますが、施術後の状態を撮影するときに施術前と明るさを変化させるのはもちろんNG。
アフターの写真で、肌をきれいに撮ることを意識しすぎて、しみやそばかす、肝斑、くすみなどがある実際の肌の状態と異なってしまうと、施術の効果を伝える症例写真の目的からそれてしまいます。
ライティングは、目で見たような自然な明るさを心がけるようにしましょう。また、施術ビフォーの写真を撮影するときにライティングの設定を決めて、同じセッティングでアフターを撮影しましょう。
撮影・監修:フォトグラファー平林直己