トゲ
ヒトの体内にもともと存在し、肌のハリや弾力、うるおいを保つヒアルロン酸。美容医療では、老化による変化の補正のほか、より美しい形状を目指す輪郭形成につかわれています。
ヒアルロン酸注入は安全性の高い治療法といわれていますが、一方で重篤な合併症のリスクが起こる可能性もゼロではありません。
特徴やほかの施術との違いのほか、リスク・副作用を含め、失敗した場合の対処方法を知って施術を受けると安心です。
もくじ
ヒアルロン酸は、1gで2リットル~6リットルの保水力があるともいわれるように保湿力に優れるほか、潤滑性を保ちます。体内では、関節液、血管、脳、眼球などあらゆる結合組織・器官に存在し、細胞と細胞の間で細胞同士をつなぐクッションのような役割をしています。
ヒアルロン酸が最も多く存在しているのが皮膚。その割合は総量の50%といわれ、ヒアルロン酸によって保湿されるほか、栄養が行きわたり老廃物が排出されています。ただし、ヒアルロン酸は20代をピークに加齢とともに減少し、40代に入ると不足しがちになります。それによって皮膚の水分量が減って乾燥し、老廃物が蓄積することで柔軟性がなくなりシワが引き起こされます。
皮膚のヒアルロン酸は加齢に伴いコンドロイチン硫酸と置き換わって減少するので,皮膚の水分が少なくなり,その結果,しわやがさつきなどの老化が起こると考えられている
引用元:ヒアルロン酸-その生産と応用
ヒアルロン酸は、「皮膚充填剤」「注入剤(フィラー)」といわれ、生体親和性の高さから、老化で生じる深いシワの改善や輪郭を整える治療に、世界中で多くつかわれています。
ヒアルロン酸は、体内で分解され徐々に吸収されていくため、定期的に施術を繰り返すことで効果が継続されます。持続期間は、ヒアルロン酸の種類によりますが、一回の注入でおよそ半年から2年程度といわれています。
化粧品においてヒアルロン酸は、多くの場合ヒアルロン酸ナトリウムという形で配合されています。肌なじみが良く角質柔軟効果があり、ヒアルロン酸が配合された化粧品を使うと肌表面にしっとりとした感触の保護膜がつくられます。それによって潤いが保たれ、乾燥を防ぐ効果が期待できます。
ヒアルロン酸は無味無臭でもともとの味を邪魔しないことから、サプリメントやドリンクなどにも配合され効果がうたわれていることもあります。ただし、経口摂取すると体内ではオリゴ糖として分解・吸収されるため、摂取したヒアルロン酸がどの程度皮膚へ再生成されるかは研究途中といわれています。
ヒアルロン酸注入では、骨・脂肪・筋肉(表情筋)・支持靱帯でおこる老化による変化の補正が可能です。
また、「すっきりとシャープに見せる」「涙袋や唇にボリュームを与える」など、美しく輪郭を形成することもできます。
骨は加齢とともに萎縮し、脂肪のボリュームも減少します。そのため歳を重ねると、丸みがなくなって骨による凹凸が目立つようになり、若い頃にはなかった影が生じるなど、顔の造形が変化します。
このように骨や脂肪のボリュームが減少した部位にヒアルロン酸注入をおこなうと、骨や脂肪に代わって肌を内側から支えることになります。しぼんでしまった風船を再び膨らませるように皮膚を内から押し上げ、ハリのあるフェイスラインへと導きます。
皮膚の下では、脂肪や筋肉が支持靱帯に支えられ、しかるべき位置に固定されています。しかし、この支持靱帯は加齢で伸びて緩みます。すると、脂肪や筋肉といった組織が下に垂れる(下垂する)ことでたるみが生じます。また脂肪のボリュームが減少し支持靭帯との間にゆるみが起こることでもたるみが生じ、ほうれい線やマリオネットラインなどの深いシワをつくります。
加齢で支持靱帯が緩んでしまった位置にヒアルロン酸を注入すると、下垂部位が上方に持ち上げられ、たるみによって生じていた深いシワを薄くする効果が期待できます。
硬さのあるヒアルロン酸製剤であれば、鼻を高くすっきり見せることができます(隆鼻術)。またアゴ先に注入することでフェイスラインがシャープになり、小顔の印象を与えることができます。
逆に柔らかなヒアルロン酸製剤であれば、涙袋や唇にボリュームを与える施術に適していて、ふっくらと若々しい印象に導きます。
ヒアルロン酸注入は即効性の高い施術です。ただし、施術直後は注入による腫れや赤み、内出血などが生じる可能性があります。また、注入後に皮膚内の水分によってボリュームが出ることがあるため、これらが落ち着く注入から2週間ほど経過したころが「完成形」といえます。
ヒアルロン酸注入では、求める施術効果に応じて適したヒアルロン酸の製品を使い分けます。
ヒアルロン酸注入で使われる製剤は多くの種類が作られていて、おもな違いはヒアルロン酸の濃度や分子量(分子の長さ)といえます。
濃度や分子量が変わると粘度(ねばりけ)と弾性(元に戻ろうとする性質)が変わり、形成力や持続時間に影響を与え、硬いヒアルロン酸の方が持続期間は長くなる傾向です。
ヒアルロン酸が体内にとどまり、一定期間施術効果を維持するには、ある程度の硬さが必要になるものの、硬すぎると手で触れたときに感触がわかるなど、硬ければ硬いほどいいわけではありません。施術部位によってはやわらかいヒアルロン酸が求められます。
ヒアルロン酸の硬さにかかわる分子量の調整は「架橋」によっておこなわれます。分子同士をつなぐ成分(架橋剤)が、分子と分子の間に橋を渡すように存在することで分子を連結させます。それによってゲル状に加工されているのです。
ジュビタームビスタRウルトラ(XC) |
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承認番号:22600BZX00108000 (XC:22700BZX00139000) 適度な硬さ:中度のシワ、表情ジワ |
ジュビタームビスタRウルトラプラス(XC) |
承認番号:22600BZX00109000 (XC:22700BZX00138000) 硬め:重度のシワ、凹み、顔のくぼみ |
ジュビタームビスタ®ボラックスXC |
承認番号:30200BZX00254000 硬め:下あご・フェイスラインを整える |
ジュビタームビスタ®ボリューマXC |
承認番号:22800BZX00338000 適度な硬さ:頬のリフトアップなど、くぼみやコケに |
ジュビタームビスタ®ボリフトXC |
承認番号:23000BZX00159000 中間の柔らかさ:ほうれい線やマリオネットライン、軽度~中度のシワ |
ジュビタームビスタ®ボルベラXC |
承認番号:23000BZX00331000 柔らかめ:目もと、口もと、唇のボリューム改善 |
レスチン®リド |
承認番号:22700BZX00177000 柔らかめ:中度~重度のシワ、唇のシワ修正 |
レスチン®リフトリド |
承認番号:22700BZX00178000 適度な硬さ:中度~重度のシワ、溝の修正 |
上記のヒアルロン酸は、すべて厚生労働省による承認を得ていますが、承認を得ていないヒアルロン酸も複数の種類があります。
リデンシティⅠ、Ⅱ |
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非常に柔らか、柔らか:肌の水分量アップ、目の下のクマ、たるみなど |
テオシアルRHA シリーズ |
柔らか~硬め:シワ、輪郭形成など |
ベロテロシリーズ |
非常に柔らか~硬め:まぶた、涙袋形成、中度のシワ、表情ジワ、重度のシワ、凹み、顔のくぼみ |
スタイレージS~XXL |
柔らか~硬め:長期持続型 ※特に「S」はリップヒアルロン酸として有名 |
クレヴィエル |
硬め:鼻、アゴ専用 |
美容医療にはさまざまな医薬品や機器がありますが、すべてが承認を得ているわけではありません。むしろ承認されたものの方が少数です。
未承認の薬剤はドクターが個人輸入しており、施術の一切はドクターの責任のもとおこなわれますが、承認を得ている薬剤は、国(厚生労働省)に有効性と安全性が認められています。
注射器1本のヒアルロン酸の量は、1.0ml(cc)です。
注入量は症状によって異なりますが、0.1、0.2、0.3とおよそ0.1ml単位で調整されます(なかには0.05ml単位で調整される場合もあります)。
ヒアルロン酸注入の費用は、自由診療で医療機関によって費用は異なり、商品によっても異なりますが、1.0mlあたり約50,000円~200,000円が相場となっています。
なお、診察料や麻酔料などが別料金となっていることもありますので、詳細は医療機関にご確認ください。
注入箇所 | 注入量の目安 |
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額 | 0.1cc~ |
涙袋形成(片目) | 0.3cc~ |
目尻(片目) | 0.5cc~ |
目の下のクマ(片目) | 0.3cc~ |
鼻筋 | 0.2cc~ |
頬 | 0.1cc~ |
唇(上下) | 0.5cc~ |
ほうれい線(両側) | 1.0cc~ |
あご | 0.6cc~ |
首の横ジワ | 1.0cc~ |
ヒアルロン酸注入は美容医療でも多くおこなわれている施術ですが、誤った部位に注入すると重篤なリスクを引き起こします。これらが万が一起こった際は、ヒアルロン酸の溶解剤である「ヒアルノニダーゼ」を注入して対処されます。施術後に違和感がある場合は、施術を受けた医療機関にご相談ください。
注入の際、血管を間接的に圧迫したり、誤って血管にヒアルロン酸が入ったりすると、ヒアルロン酸が血栓となり血流障害を引き起こし、脳卒中、失明、皮膚の壊死といった重篤な事態になりかねません。
血流障害が懸念される注入部位…目付近・鼻・額・ほうれい線
頭部から離れた部位に注入して頭痛がある場合は、血流障害の可能性があるため医療機関にご相談ください。
ヒアルロン酸は、以前トリ由来の抽出成分を使用していましたが、近年は人工的に生産された非動物由来の物質が主流となりました。
そのため、ヒアルロン酸自体にはアレルギーの要素は少ないとされていますが、もともとアレルギーを持っていると、蕁麻疹(じんましん)や呼吸困難・発疹・血圧低下などのアナフィラキシーショックが起こる可能性があります。
心配な場合は、事前にアレルギーテストを受けておくと安心です。
また麻酔薬の配合されたヒアルロン酸製剤もあるため、麻酔アレルギーがある場合はドクターにお伝えください。
注入部位が浅すぎたり深すぎたり、注入量が多すぎることなどで、凹凸やしこりがあらわれることがあります。また過度に注入すると「異物肉芽腫」といわれるしこりになる場合もあり、その場合は、手術で摘出することになる場合もあります。
皮膚の浅い層にヒアルロン酸を注入すると「チンダル現象」といわれる製剤が透けて見えてしまう現象が起こることがあります。部位によっては、チンダル現象が起こりにくいベビーコラーゲン注射やリジュラン注射など、ヒアルロン酸とは別の施術を選択する方法もあります。
そのほか、以下のような副作用があらわれる場合がありますが、数日で落ち着くことがほとんどです。
スネコス注射 |
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皮膚のハリや弾力を保つコラーゲンとエラスチンの再生・増殖を促す作用がある。1週間~10日おきに4回ほど注射の施術を受けることで、自然な美肌効果が期待できる。輪郭を形成する治療には不向き。 |
ベビーコラーゲン注射 |
コラーゲンもヒアルロン酸と同様、もともと体内に存在し、肌のハリやうるおいを保つといわれる成分。ボリュームを補う作用は弱いため、深いシワを内側から盛り上げる、頬の高さを形成するなどには不向きだが、目尻や目の下などの目もとや口もと、首に現れるような浅いシワの改善が期待できる。 |
リジュラン注射 |
サーモン由来のDNA「ポリヌクレオチド」が主成分の注射薬剤で、真皮層にある線維芽細胞の働きを補い、肌の弾力や柔軟性を回復させる。2週間~4週間に1度、計3回~4回ほどの治療により肌質を根本から改善に導く。輪郭を形成する治療には不向き。 |
レディエッセ注入 |
カルシウムハイドロキシアパタイトをおもな成分とする注入剤。約1年以上かけて体内へと吸収されていくが、鼻やアゴの形成に使われしっかりとしたボリュームが出せる。ヒアルロン酸のような溶解剤がないため、十分な知識と技術をもったドクターによる治療を受けることが大切。 |
アルジェネス |
アガロースという多糖類の一種を主成分とする注入剤。主に鼻の高さを出す隆鼻や額・あごなどの形状を整える輪郭形成、シワ治療といった施術で使用される。複数の製品があり、製品ごとに成分や適した症状が異なる。 |
ヒアルロン酸注入以外の施術でも輪郭を形成できる施術はありますが、ヒアルロン酸注入のメリットは、ヒアルロン酸には溶解剤「ヒアルロニダーゼ」があるため、やり直しが可能である点といます。
ゆるんだ支持靱帯や下垂した組織を引き上げる必要があるようなたるみにおいては、ヒアルロン酸注入だけでは効果が得られない場合があります。この場合は、皮膚の下にトゲがついた糸(スレッド)を挿入して、組織自体を持ち上げる施術がおこなわれます(スレッドリフト)。
スレッドリフトもヒアルロン酸注入と同様に、即効性が期待できる施術です。持続はスレッドの種類によって異なりますが1年前後といわれ、ヒアルロン酸注入と併用することで、相乗効果が期待できます。
ボツリヌス注射は筋肉を弛緩させる作用があり、おもに筋肉の動きによる表情ジワの治療に用いられます。薬剤としては、アラガン社の承認薬「ボトックスビスタ」がよく知られています。
ヒアルロン酸ではボリュームを補うことで表情ジワを薄くしますが、ボツリヌス注射では、表情筋の緊張を緩めることでシワが寄らないようにします。
ボツリヌス注射はボリュームを与えることはできませんが、目まわりや口まわり、エラなど、ヒアルロン酸では施術がおこなわれることが少ない部位への注入もおこなわれ、併用することで施術効果が高まるケースがあります。
ボツリヌス注射による施術効果は2日~3日後に現れます。そのため、即効性のあるヒアルロン酸注入と同時におこなう場合は、数日後の形状を予想しながら施術がおこなわれることになります。
なお、ボツリヌス注射による効果の持続は3カ月から4カ月程度といわれます。
美容医療には、コラーゲン・エラスチン、ヒアルロン酸といった成分を生成する「線維芽細胞」を活性化させる施術があります。光治療(フォトフェイシャルなど)、レーザー治療、高周波治療(サーマクールなど)、マッサージピール(コラーゲンピール)、注入施術であれば、スネコス注射、リジュラン注射など、種類も豊富です。
求める施術効果についてはドクターとしっかり相談することが大切です。
ヒアルロン酸製剤そのものに麻酔薬(リドカイン)が含まれているものもありますが、テープやクリームタイプの麻酔をおこなうことで、施術中の痛みは軽減されます。
また、注入量が多い場合は注入後に鈍痛が残る場合がありますが、数日で落ち着きます。
ヒアルロン酸注入では、ニードルもしくはマイクロカニューレといわれる針を使います。
2つの針の違いは先端の形です。
皮膚が薄く細かい注入調整が必要な目尻などにはニードル、ピンポイントではなく全体に注入する場合にはカニューレ、といったように、施術内容によって適した針が選択されます。
カニューレは、先端が丸いことで血管や神経を傷つけることがなく、内出血などのリスクを軽減できます。また、針の横に孔があるため、孔の方向を調整することで何度も針を挿入する必要がありません。
(1)診察・カウンセリング
仕上がりのイメージをドクターに相談し、不安なこともここで解消することが大切です。
(2)洗顔をして注入部位を清潔にする
注入する部位を清潔にするために洗顔をおこないます。部位によっては注入部位のメイクのみ拭き取るだけで施術可能な場合もあります。
(3)注入
麻酔をおこなう場合は、麻酔クリームの塗布、または麻酔テープにより痛みを軽減させます(約30 分ほど)。 ヒアルロン酸薬剤のなかには麻酔薬が配合されている種類もあるので、麻酔不要で治療を受けることもできます。
(4)終了後はメイクも可能
ヒアルロン酸注入による治療は、直後から効果を実感できます。
※アレルギー反応や炎症反応、感染が起こる可能性がある方は下記のような方です。
ヒアルロン酸注入でもっとも多いトラブルは、ドクターの知識と技術不足によるものといわれています。比較的、安全性の高いといわれるヒアルロン酸注入治療ですが、大切なのは技術力と美的センスに優れたドクターを選ぶことといえるかもしれません。
数ある美容医療機関の中で、ヒアルロン酸注入治療を得意とするドクターを見分ける方法として、各製薬会社の定める基準を満たしたドクターのみに証書が授与される「指導医」や「認定医」に認定されているかどうかで見極める方法があります。
また、老化による変化は、脂肪、筋肉、支持靱帯と複数の組織で同時に起こるため、自身の老化の状態について質問し、解剖学の観点からしっかりわかりやすく説明してくれるドクターを選ぶのもいいでしょう。
また、万が一のことが起こった際の対処法がわかっているドクターを選ぶと安心です。