肌のハリや弾力、うるおいを保つヒアルロン酸。ヒトの体内にもともと存在する粘弾性の物質で、美容医療だけでなく化粧品、サプリメント・食品などにも幅広く利用され、コラーゲンと並び認知度の高い物質です。
体質によってはアレルギーを引き起こす可能性があるコラーゲンとは違って、副作用が少ないことから美容医療において、ヒアルロン酸注入は人気の高い施術といえます。しかし一方で、手軽さゆえに過度な注入を繰り返してしまうといったトラブルを招くことも少なくなりません。
トラブルにならないために、施術を受ける際はヒアルロン酸注入で得られる効果やほかの美容医療施術との違いを知ることが大切です。
もくじ
サプリメントやスキンケアの成分として幅広く利用される「ヒアルロン酸」は、もともとヒトの体内に存在する物質です。体の循環と代謝を助けるムコ多糖類(※)の1つで、皮膚以外にも関節液、血管、脳、眼球などあらゆる結合組織・器官に存在しています。また、生体成分として極めて高い水分保持能力と粘性を持っていて、ヒアルロン酸1gで2ℓ~6ℓの保水力があるともいわれています。
※ムコ多糖類:ムコは「粘液性」という意味。生体の運動を円滑にしたり、細胞や組織の表面を覆うことで環境から保護作用をする働きがあります。
ヒアルロン酸は,大きくはグリコサミノグリカン(古くはムコ多糖とも呼ぶ:グルコサミンかガラクトサミンとグルクロン酸の2糖単位の繰り返しでできた長い鎖状構造の多糖類)として七つに分類される,多糖類の一つである.ヒアルロン酸図2プロテオグリカン複合体の構造は他のグリコサミノグリカンと異なり,硫酸基をもたず,自らがバックボーンとなって,その側鎖に他のグリコサミノグリカンを結合させ,巨大なプロテオグリカン複合体を形成していることが,特に組織中では多 い.
引用元:ヒアルロン酸の生理的役割と疾患
ヒアルロン酸は、細胞と細胞の間のクッションのような役目で細胞同士をつないでいる保水成分です。体内にあるヒアルロン酸の約3分の1が、合成と分解により毎日ターンオーバーしていて、20代をピークに加齢とともに減少するといわれています。このことから加齢にともないヒアルロン酸が減ってしまうことが、乾燥やシワなどを引き起こす原因の一つとなるのです。
皮膚のヒアルロン酸は加齢に伴いコンドロイチン硫酸と置き換わって減少するので,皮膚の水分が少なくなり,その結果,しわやがさつきなどの老化が起こると考えられている
引用元:ヒアルロン酸-その生産と応用
安全性がきわめて高いヒアルロン酸の摂取方法は美容医療での注入のほか、化粧品による肌への塗布、サプリメントや食品・飲料水による経口摂取があります。
高い保水力から肌にうるおいを与える目的で、さまざまな化粧品にスキンケア成分として配合されています。また、高純度に精製されたヒアルロン酸は無味無臭、その水溶液も無色透明であることからサプリメントや飲料水、食品等として幅広く用いられています。
ヒアルロン酸は水に溶けやすく、多くの場合ヒアルロン酸ナトリウムという形で化粧品に配合されています。肌なじみが良く角質柔軟効果があり、肌表面にしっとりとした感触の保護膜をつくりますが、ヒアルロン酸は分子が大きいため、そのままでは肌に浸透されにくいという性質をもちます。
ヒアルロン酸を肌の奥まで浸透させるためには、分子のサイズを100分の1以下まで超微細化することが必要とされています。これをナノ化といい、超低分子になったヒアルロン酸は「ナノ化ヒアルロン酸」と呼ばれ、角質層まで浸透するといわれています。
ナノ化ヒアルロン酸配合のスキンケア製品は市販されているので、肌の悩みにあった化粧水やクリームなどを選びましょう。
皮膚のヒアルロン酸が不足すると肌に水分を保持することが難しくなって、乾燥やシワを引き起こす原因になるともいわれています。 しかし、ヒアルロン酸配合のサプリメントやドリンクによる経口摂取をしても、体内ではオリゴ糖として分解・吸収されるため、摂取したヒアルロン酸がどの程度、皮膚へ再生成されるかは未だ研究途中です。
ヒアルロン酸を体内に取り入れる方法のなかで、シワやほうれい線といった、肌の溝を盛り上げるなど最も改善を実感できるのは、注入による美容医療施術といえます。また、シワなどの溝を盛り上げる以外に、顔全体にヒアルロン酸薬剤を少量ずつ注入することで、肌の乾燥を改善し、潤いある肌へと導く治療としても使用されます。
一度注入したヒアルロン酸は、ヒアルロニダーゼなどの溶解剤により溶解、修正ができることもヒアルロン酸注入治療の特徴といえます。
ヒアルロン酸は、生体親和性(※)の高さから美容医療で肌のシワの溝を盛り上げ、へこみを膨らませる皮膚充填剤、または注入剤(フィラー)といわれ、世界中で多く使用されています。以前はトリ由来の抽出成分を使用していましたが、近年は生物の生命現象を応用するバイオテクノロジーによって、人工的に生産された非動物由来の物質が主流となりました。
そのため、体が異物としてアレルギーを起こすことが少なく、安全性の高い美容治療の1つであるといえるでしょう。
※生体親和性:人体によくなじみ、排除反応のリスクが少ないこと
加齢にともない顔の形状は変化していきます。真皮や表情筋が衰えて、重力とともに頬がたるむことで、ほうれい線やマリオネットラインといった深い溝が生じます。
もともと体内に存在していて、数カ月かけて体内吸収されてしまうヒアルロン酸薬剤を注入するリフトアップ治療は、糸リフトや外科的手術に抵抗がある方には好ましい選択肢の一つといえるでしょう。
ヒアルロン酸注入でのリフトアップは、加齢とともに変化する顔の骨・筋肉・脂肪に代わって、肌を内側から支えるような方法です。それぞれの骨格や肌質に最適なヒアルロン酸薬剤を注入し、しぼんでしまった水風船を再び膨らませるように皮膚を内から押し上げることで、ハリのある若々しいフェイスラインへと導きます。
フェイスラインを整えるための治療法には、骨切り術整形というものがありますが、リスクが高く長いダウンタイムが必要です。
一方、ヒアルロン酸注入は、手術することなく顔の造形を整えることができます。ヒアルロン酸薬剤は各メーカーさまざまな種類があり、硬さのあるヒアルロン酸薬剤は鼻筋やアゴを立体的に整えて、柔らかなヒアルロン酸薬剤は涙袋や唇にふっくらとしたボリュームを与えます。
頬のくぼみにヒアルロン酸薬剤を注入することで、ふっくら丸みのあるフェイスラインへ導きます。また頬の位置を高くすると、若々しい印象へと近づくといわれています。
アゴ先にヒアルロン酸を注入することでフェイスラインがシャープになり、小顔な印象を与えることができます。生まれつきアゴが割れているなどの悩みにも対応できる治療法です。
ヒアルロン酸にはさまざまな種類の薬剤があります。肌に潤いを与える柔らかいヒアルロン酸から鼻やあごの形成に使用される硬めのヒアルロン酸など、注入する部位や治療の目的により使用する薬剤が異なります。
ヒアルロン酸の注入量は、シワやほうれい線などの溝の深さと希望する肌のボリュームや治療目的によって調整します。適切な量を注入することで自然に仕上がり、周囲に気づかれることなく肌トラブルや悩みを改善に導きます。 ヒアルロン酸の注入量は個人差があり、ドクターの診断のもと、適切な治療をおこないましょう。
(ヒアルロン酸注射1本1.0ccとする)
注入箇所 | 注入量の目安 |
---|---|
額 | 0.1cc~ |
涙袋形成(片目) | 0.3cc~ |
目尻(片目) | 0.5cc~ |
目の下のクマ(片目) | 0.3cc~ |
鼻筋 | 0.2cc~ |
頬 | 0.1cc~ |
唇(上下) | 0.5cc~ |
ほうれい線(両側) | 1.0cc~ |
あご | 0.6cc~ |
首の横ジワ | 1.0cc~ |
高周波治療は、真皮層に高周波の熱エネルギーを届けて、熱収縮をおこさせることで肌を引き締めリフトアップ効果を狙います。血行促進作用でハリ感のある肌へと導きますが、高周波によるシワ、たるみ治療は繰り返しの照射が必要となります。
一方、ヒアルロン酸注入によるシワ・たるみ治療は、1度の注入で効果が数カ月持続するといわれています。
切らないリフトアップともいわれる高密度焦点式超音波(HIFU)。皮膚表面を傷つけることなくSMAS層に65℃~70℃の熱エネルギーを届けることで皮膚の土台ともいえる筋肉を引き締め、たるみや深いシワを治療できるといわれています。
即時かつ長期的なリフトアップに期待がもてる治療ですが、ヒアルロン酸注入のように肌へボリュームをもたせる、鼻筋などを整えるなど造形の治療には不向きといえるでしょう。
レーザーマシンは波長によって肌へ作用するエネルギーが異なり、マシンの機種によって毛穴やしみ、シワやたるみなど、さまざまな症状へアプローチできる治療法です。
レーザーの熱エネルギーにより繊維芽細胞が刺激され、コラーゲンなどが生成されることで肌にハリはでますが、ヒアルロン酸注入ほどのボリューム感は期待ができないでしょう。
薬剤によってはヒアルロン酸と同時に注入が可能ですが、それぞれの薬剤がもつ作用などを理解し、必ずドクターと相談しながら肌悩みを改善することが大切です。
また、ヒアルロン酸薬剤と異なりコラーゲン・リジュランなど溶解することができない薬剤もあり、元の状態へと戻すためには体内に吸収・分解されるまで待つ必要があります。
皮膚のハリや弾力を保つコラーゲンとエラスチンの再生・増殖を促す作用がある、架橋剤などの化学物質を含まないヒアルロン酸と6種のアミノ酸を含む製剤がスネコスです。1週間~10日おきに4回ほど注射の施術を受けることで、肌にハリが出て小じわが目立たなくなった、肌に弾力が生まれてモチモチになった、化粧ノリが良くなったなど、自然な美肌効果が期待できます。
注射後は赤み、腫れなどが生じることがありますが、1日~2日でおさまる傾向にあります。また、稀に肌の表面に凹凸が生じることがありますが、ほとんどの場合、1日~2日で肌になじみ治まるとされます。
ボツリヌス注射とは、A型ボツリヌス毒素から抽出した毒性のないたんぱく質の一種のことで、筋肉を弛緩させる作用があります。おもに筋肉の動きによる表情ジワの治療として使用される薬剤です。ボツリヌス注射は筋肉への作用でシワの予防と改善をし、ヒアルロン酸注入は真皮のボリュームを補う働きがあることから、併用して治療がおこなえるといえるでしょう。
また「ボトックス」と呼ばれるのはアラガン社の承認薬「ボトックスビスタ」のみとされています。
コラーゲンもヒアルロン酸と同様、もともと体内に存在し、肌のハリやうるおいを保つといわれる成分です。コラーゲン注射はボリュームを補う作用は弱いため、深いシワを内側から盛り上げる、頬の高さを形成するなどには不向きな治療方法ですが、目尻や目の下などの目もとや口もと、首に現れるような浅いシワの改善が期待できます。
リジュラン注射とはサーモン由来のDNA「ポリヌクレオチド」が主成分の注射薬剤で、真皮層にある繊維芽細胞の働きを補い、肌の弾力や柔軟性を回復させるといわれています。肌質を根本から改善に導きますが、効果を実感するためには2週間~4週間に1度、計3回~4回ほどの治療が必要とされます。
また、肌にボリュームを補うことや鼻筋形成などには不向きな治療法といえるでしょう。
レディエッセはカルシウムハイドロキシアパタイトをおもな成分とする注入剤です。しっかりとしたボリュームが出せることから、鼻やあごの形成などに使用され、約1年以上かけて体内へと吸収されていきます。
レディエッセは希望と異なる仕上がりになった場合、ヒアルロン酸のような溶解剤がないため、十分な知識と技術をもったドクターによる治療を受けることが大切です。
アガロースという多糖類の一種を主成分とする注入剤がアルジェネス®で、肌のボリュームを補う作用があり、主に鼻の高さを出す隆鼻や額・あごなどの形状を整える輪郭形成、シワ治療といった施術で使用されます。複数の製品が存在するシリーズで、製品ごとにそれぞれ含有している成分や適した症状などの特徴が異なります。
鼻筋を通したりやアゴに注入してフェイスラインを整えることや唇をふっくらさせるといった整形ができます。治療時間は麻酔の有無やヒアルロン酸注射の本数や部位にもよりますが、15分程度と短時間な治療なので、治療の時間が長く取れない方でも受けることができるといえます。
他の類似施術は作用を実感するまでに期間を要しますが、ヒアルロン酸注入は、注入直後に肌や唇のボリュームアップ、シワの改善などが実感できます。
また、注射なので解決したい悩みに対してピンポイントの治療ができます。
万が一、イメージと違う仕上がりになってしまった場合、ヒアルロン酸溶解剤(ヒアルロニダーゼなど)で溶かし、再注入することができます。
他院によるヒアルロン酸注入でも溶解治療を受けつけている医療機関がほとんどです。他院で注入したヒアルロン酸を溶かすことを希望する場合は、溶解のみの治療が可能かを確認しましょう。注入した医療機関であれば溶解および修正が無料である場合もあります。
なかには手軽さゆえに、過度な薬剤注入となる傾向もあります。注入されたヒアルロン酸は、体内の水分を吸収しつつ皮膚となじむ性質をもつため、1度に大量のヒアルロン酸薬剤を注入すると、後から過度なボリュームが出てしまう可能性があるので注意が必要です。体内に吸収される成分なので徐々に元に戻りますが、ドクターの判断のもと、適量を注入するようにしましょう。
ヒアルロン酸注入は安全性の高い治療法といわれていますが、低品質の薬剤や施術者の知識と技術不足により重篤な副作用が生じることも考えられます。また麻酔薬の配合されたヒアルロン酸薬剤も多くあるので麻酔アレルギーへの注意も必要です。
内出血、過剰注入による膨張現象、注入量による左右差、腫れ、熱感、倦怠感、痛み、痒み注入部分に赤い斑点、つっぱり感、感染、痺れ、蕁麻疹、むくみ、発熱、アレルギー、皮膚壊死、血管閉塞による失明、肉芽腫、腫瘤(しこり)、冷や汗、胸痛、咳、頭痛、アナフィラキシーショック、脳梗塞など
ヒアルロン酸での治療は注入直後から結果が実感できるうえ、修正可能であることも特徴的な治療法です。一部を除き、ヒアルロン酸薬剤そのものに麻酔薬が含まれているので注入時の痛みは最小限といってもよいでしょう。希望すれば麻酔クリームを塗ることもできます。
また、部位によっては注射針が皮膚下に挿入される際に違和感があり、薬剤によっては注入時に鈍痛を感じることもあるといわれています。
ヒアルロン酸注入の注射器には細い針を使用しますが、さらに痛みを軽減できる「マイクロカニューレ」を選ぶこともできます。またマイクロカニューレは医療機関によっては別料金となる場合があります。
マイクロカニューレは超極細で針の先端が丸く、横から薬剤が出るよう作られた注射針です。通常の注射針では、シワや溝にあわせ何度も針を刺して注入しますが、マイクロカニューレは薬剤が出る穴が針先ではなく針の横に空いているので、一つの穴に針を刺して穴の向きを変えることで注入する方向を変えられるといわれています。また、針の先端が丸いので血管や神経を傷つけることがなく、内出血などのリスクは少ないといえるでしょう。
(1)診察・カウンセリング
仕上がりのイメージやヒアルロン酸注入により、どの部位にどの程度のボリュームを出したいかなど、しっかりとドクターに相談することが大切です。
(2)洗顔をして注入部位を清潔にする
注入する部位を清潔にするために洗顔を行います。部位によっては注入部位のみメイクを拭き取り、ヒアルロン酸注入治療を受けることもできます。
(3)必要であれば麻酔をする
麻酔クリームの塗布、または麻酔テープにより痛みを軽減させます(約30 分ほど)。
ヒアルロン酸薬剤のなかには麻酔薬が配合されている種類もあるので、麻酔不要で治療を受けることもできます。
(4)薬剤注入
治療希望の部位にヒアルロン酸薬剤を注入します。万が一、痛みや違和感があった場合はすみやかにドクターに申し出ましょう。
(5)終了後はメイクも可能
ヒアルロン酸注入による治療は、直後からその作用を実感できます。また、ヒアルロン酸の追加は、体内の水分を吸収することでボリュームを増すというヒアルロン酸の特性を考慮する必要があるので、ドクターの診断のもと追加注入をおこなうことが大切です。
ヒアルロン酸注入後のマシン治療は2週間ほどあけることが望ましいといわれていますが、マシンによってはヒアルロン酸注入と同日の施術が可能なものもあります。ドクターに相談し、最適なタイミングで行うようにしましょう。
美容医療のヒアルロン酸注入は自由診療に基づくため、料金はヒアルロン酸薬剤や医療機関によって異なり、ヒアルロン酸注射1本あたり約50,000円~120,000円が相場といえるでしょう。
また、診察料や手数料、麻酔やマイクロカニューレ等の針が別料金の場合もあります。事前に確認しておくようにしましょう。
もともと私たちの体内に存在するヒアルロン酸。加齢とともに減少するヒアルロン酸を注入することにより、シワや顔の造形を整えることができるうえ、分解まで可能となると安易な注入を繰り返すことにもなりかねません。すべての美容医療には必ずリスクが伴います。1度に大きな変化を求めず経験豊富なドクターの診断のもと、自然な美しさと若々しさを目指しましょう。
また、ヒアルロン酸注入でもっとも多いトラブルはドクターの知識と技術不足によるものといわれています。比較的、安全性の高いといわれるヒアルロン酸注入治療ですが、何より大切なのは技術力と美的センスに優れたドクターを探すことといえるでしょう。
数ある美容医療機関の中で、ヒアルロン酸注入治療を得意とするドクターを見分ける方法のひとつとして、各製薬会社の定める基準を満たしたドクターのみに証書を授与される「指導医」や「認定医」に認定されているかどうかで見極める方法があります。これは豊富な症例と確かな技術であることを認められたドクターを探す際の指針ともいえるでしょう。
また、悩みや部位に適した種類のヒアルロン酸薬剤を選ぶスキルをもつドクターによる注入治療は、ヒアルロン酸の持続期間が長くなるともいわれています。
(2021年1月更新)