ピーリングとは、皮膚の表面に蓄積した角質を人工的に剥がすことで、皮膚の新陳代謝であるターンオーバーを促す治療方法で、くすみやニキビの改善が期待できるとされています。
比較的手軽にできる美容医療である一方、施術後に炎症が発生するなど肌トラブルの報告例は少なくありません。ピーリングでなめらかな肌を目指すためには、その効果と適切な頻度を知ることが大切です。
この章の要約
ピーリングは蓄積した古い角質を除去して肌の代謝を整えて、角質が蓄積することで起こるシミ・くすみ、毛穴トラブルなどを改善に導く治療。顔のほか、背中、ひじ・ひざといった体への施術も可能だが、施術が適さないケースもあるので注意が必要である。また、施術回数が多いほど効果が高いわけではないため、施術回数や頻度については症状に応じて医療機関の指示に従うのが良い。
ピーリング(Peeling)とは「皮をむく」「剥がす」という意味です。美容医療領域においては、角質層に蓄積された古い角質を人工的に除去して、外的要因や加齢などによって低下した肌の代謝にアプローチする治療方法とされています。
皮膚は表皮の基底層で新しい細胞を生み出し、およそ28日周期で上へと押し上げて最後は角質となり、やがて剥がれ落ちます。これを「ターンオーバー」といい、傷跡や日焼けがきれいに元の状態に回復することもターンオーバーによるものです。
しかし、ストレス・食生活・喫煙・睡眠などの生活習慣の乱れ、紫外線やエアコンによる乾燥などの外的刺激や、年齢とともに肌のターンオーバーが乱れると、古い角質が剥がれ落ちずに蓄積されていきます。
すると、肌は潤いを失ってシミやシワが生じ、毛穴が皮脂で詰まることでニキビが発生するなど肌トラブルへとつながるといわれています。
皮膚の構造について
ヒトの皮膚は外側から表皮・真皮から成る。表皮は厚さが平均0.2ミリともいわれる薄い膜で、外側から角質層・顆粒層・有棘層(ゆうきょくそう)・基底層の4層に分かれ、それぞれ固有の機能がある。
表皮細胞の新生速度を妨げて、肌トラブルにつながるターンオーバーの乱れを整えるのが、ピーリングです。
ピーリングでターンオーバーが正常に整うと肌の保水機能が保たれます。保水力のある健康な肌はバリア機能が整うため、ニキビやシミなどの肌トラブルが起こりにくい状態といえます。
参考文献:A Practical Approach to Chemical Peels - ケミカルピーリングへの実用的なアプローチ
ピーリングは体のあらゆる部位に治療をおこなうことができます。
顔や背中など皮脂腺が発達している部位は、過剰な皮脂分泌で毛穴が皮脂でつまることで、ニキビを引き起こしてしまうことも少なくありません。ピーリングにより毛穴の皮脂づまりを改善することでニキビのできにくい、なめらかな肌へ導くとされています。
また、ひじやひざは皮脂腺は少ないものの関節であるため動かす機会が多く、外的刺激を受けやすい部位です。ひじをつく、たてひざなどによる皮膚への刺激が原因で炎症が起こり、角質が厚くなることから、黒ずみやかさつきの原因になるともいわれています。ピーリングで過剰な角質を除去することで黒ずみの少ない、なめらかな肌へと導きます。
本来の肌質や現在の肌トラブルの症状によってはピーリングでの施術がおこなえない、または悪化を招いてしまうことも少なくありません。ですので、安易な自己判断による市販のピーリング剤でのケアには注意が必要といえます。
ピーリングによる肌質の改善には個人差があり、一般的には2週間~4週間に1度の施術を6回ほど繰り返すことでターンオーバーが整うとされています。肌のターンオーバーが整った後は、ピーリング施術の継続は必要ありません。
なお、不要な角質を取り除くことは大切ですが、ターンオーバーを早めようと、短期間のピーリングなどで未熟な角質をはがしてしまうと肌のバリア機能が低下して、シミや炎症などの肌トラブルを引き起こすこともあるので医療機関の指示に従ってください。
ピーリングによるニキビ治療は使用薬剤、ニキビの重症度によってその効果は異なります。平均で6回~10回程度の治療を繰り返すことで新たなニキビが発生する割合が減少するとされ、肌質改善にむかうといわれています。
活動性尋常性ニキビの治療における表面的なケミカルピーリングの有効性と安全性についての発表によると、グリコール酸によるケミカルピーリングは、活動性尋常性ニキビの忍容性が高く安全な治療法ですが、サリチル酸ピーリングは、より暗い肌の患者の治療に便利であり、グリコール酸よりも有意かつ早期の改善を示したとあります。
In conclusion, chemical peeling with glycolic acid is a well-tolerated and safe treatment modality in active acne vulgaris while salicylic acid peels is a more convenient for treatment of darker skin patients and it showed significant and earlier improvement than glycolic acid
引用元:Efficacy and safety of superficial chemical peeling in treatment of active acne vulgaris
シミにおいては数カ月から年単位の治療期間がかかることが多いので、レーザーなど他の治療法との併用が望ましいでしょう。
この章の要約
ピーリングの薬剤には複数の種類がある。作用の強さやダウンタイムの長さのほか、改善される症状などに違いがある。また医療機関にはピーリングマシンがあり、薬剤を塗布してふき取るいわゆるケミカルピーリングよりも刺激が少ないといわれている。
医療機関でおこなわれるケミカルピーリングは、エステや市販されるピーリング剤とは濃度が異なるため、ドクターの指導のもとでおこなわれます。
医療機関では酸性薬剤を使用したケミカルピーリングのほかにマシンを使用し、不要な角質を除去するピーリングもあります。薬剤が使用できない肌質に対応できるマシンもあるので、ドクターの診断のもと、適切なピーリングでの治療をおこないましょう。
ケミカルピーリングにはさまざまな種類があって、フルーツに含まれている酸の一種(AHA)や天然乳酸などを用いた薬剤があります。以下では、代表的なケミカルピーリングそれぞれの種類と特徴について説明します。
代表的なケミカルピーリング剤の一つといわれ、フルーツ酸(AHA)とも呼ばれています。ニキビの原因菌として知られるアクネ菌に対するグリコール酸ピーリングの作用についての研究発表によると、グリコール酸はアクネ菌の成長阻害や殺菌の作用があると示されています。
Our results demonstrate that glycolic acid has moderate growth inhibitory and bactericidal effects on P. acnes
また、AHAのピーリング剤は1990年代にアメリカで報告されたのが発祥とされ、日本では1994年から厚生労働省によって輸入の認可[※]を受けています。
グリコール酸は医療において有効性と安全性が確認され、分子がAHAで最も小さいことから肌への浸透がよい薬剤です。蓄積された古い角質を除去、表皮細胞を活性化させることでターンオーバーを整え、肌コラーゲンの生成にも作用するので、ハリのある肌へと導くといわれています。またグリコール酸によるピーリング治療は直後からメイクすることが可能です。
[※]エステティックサロンにおけるケミカルピーリングの消費者危害防止策について
天然乳酸を使用したラクトピーリングは、刺激が少なく敏感肌でも治療が可能といわれています。天然乳酸もフルーツ酸の1種であり分類としてはAHAのピーリング剤に分けられますが、グリコール酸と比べて分子のサイズが大きく、皮膚の浅い層の症状への治療に適している薬剤です。
蓄積された古い角質を除去し、肌のターンオーバーを整えるとともに保湿と美白効果があるとされ、色素沈着や肌の色ムラを改善に導きます。
サリチル酸(BHA)はグリコール酸よりも強力に作用する薬剤ですが、そのため治療中の刺激が強く1週間ほどのダウンタイムが必要とされていました。ニキビに対するサリチル酸ピーリングの作用についての研究発表によると、顔にニキビがある複数名の患者に対して2週間の間隔で計3回の治療をおこなったところ、炎症性ニキビおよび非炎症性ニキビの数は治療期間に比例して減少したと示されています。
Methods: Thirteen patients (13 men; mean age 22.6, range 20-28) with facial acne were enrolled. Jessner's solution was applied to one side of each patient's face and 30% salicylic acid to the other in three sessions at 2-week intervals. A blinded investigator counted noninflammatory and inflammatory lesions before treatment and 2 weeks after each treatment. Results: Inflammatory and noninflammatory acne lesion counts decreased in proportion to the duration of treatment.
引用元:Salicylic acid peels versus Jessner's solution for acne vulgaris: a comparative study
サリチル酸マクロゴールピーリングはサリチル酸に軟膏の基剤などに用いられるマクロゴールを組み合わせることで、サリチル酸の刺激を抑え皮膚を傷めることなく、肌のターンオーバーを整えることができます。毛穴のつまりから炎症性ニキビまで、穏やかに効率よく作用し、短期間でなめらかな肌に導くピーリングといえるでしょう。
国内で承認を受けているサリチル酸のピーリング剤はありませんが、ニキビ、肝斑、光老化、そばかすなど、多くの皮膚科学的および美容上の問題に対して安全で効果的とされるピーリング剤です。
たフランスの医療機器メーカーによって開発された、グリコール酸・サリチル酸・乳酸の3種を配合するケミカルピーリング剤です。3つの酸がもつ、それぞれのメリットを最大限に発揮するピーリングといわれていて、高い効果とダウンタイムがほとんどないことが特長です。
国内では未承認のピーリング剤ですが、不要な角質を除去してターンオーバーを整える作用が期待があるとされて、肌のハリ感を改善に導く効果が期待できます。
イタリアの医療機器メーカーによって開発されたピーリング剤である「PRX-T33」を用いたピーリングはマッサージピールやコラーゲンピールと呼ばれ、真皮のコラーゲン生成を促す働きがあります。
高濃度トリクロロ酢酸(TCA)、低濃度過酸化水素(H2O2)、コウジ酸が配合された薬剤を塗布し、肌をマッサージしながらおこないます。肌の奥に浸透し、真皮のコラーゲン生成をサポートすることで、ハリ感のある肌質へと導き、毛穴の開き、小じわやたるみを改善するピーリングといわれています。
また、日本国内では未承認のピーリング剤ですが、イタリアの保険省では医療機器として登録されておりCEマークも取得している[※1]と示されています。
[※1]Indicazioni PRX-T33 della linea WiQomed commercializzato da GPQ:WiQo med
リバースピールはマッサージピールの薬剤であるPRX-T33を肝斑へ作用するよう改良されたケミカルピーリングです。肝斑ピールとも呼ばれ、3種の薬剤を使用することで表皮外層・表皮深部・真皮に浸透させ、肝斑や慢性的な色素沈着を改善に導きます。
肝斑は一度では改善が難しいことが多いので、治療回数を重ねる必要があります。なお日本国内では未承認のピーリング剤であり、トレチノイン治療をしている場合はリバースピールをおこなう2週間前に治療を中止する必要があるので注意しましょう。
アメリカの医療機器メーカーによって開発された、水流を利用したピーリングマシンが「ハイドラフェイシャル(HydraFacial)」で、日本国内では未承認ですがアメリカFDA(米国食品医療品局)で承認を得ている医療機器[※2]です。
[※2]Establishment Registration & Device Listing:FDA
ハイドラフェイシャルは3つのステップでの施術となります。まず皮膚を軟化し、汚れを浮かせ毛穴の奥まで洗浄し、穏やかに角質を剥離します。その後、皮膚を刺激することなく渦巻き状の水流で毛穴の皮脂づまりを除去しながら同時に保湿をおこないます。最後は美容成分を補給し、肌を整えます。とくに毛穴の黒ずみや皮脂づまりに効果があり、薬剤での治療と比べると刺激の少ないピーリングといえるでしょう。
皮膚表面が傷んでいると、ケミカルピーリングは必要以上に深く作用する可能性があるため、ひげそりや顔そり、スクラブ洗顔料の使用は控えてください。また1カ月以内にレーザー治療や光治療など、他の施術を受けた場合、薬剤およびマシンでのピーリングがおこなえないことがあるので、必ずドクターに相談のうえ適切な施術を受けてください。
薬剤を塗布するケミカルピーリングの施術の流れをご紹介します。
ピーリングマシン、ハイドラフェイシャルによる流れは、「効果的なハイドラフェイシャルの回数・頻度を知って整える肌のターンオーバー」で説明しています。
(1)診断
洗顔後、ドクターによる肌の診断がおこなわれます。
(2)施術
目元を保護し、症状にあわせたピーリング薬剤を塗布します。この時、肌にピリピリとした多少の刺激を感じることがあります。万が一、異常な刺激や痛みを感じた際はすぐにドクターやスタッフに申し出ましょう。
(3)拭き取り
薬剤が拭き取られ、ピーリング治療は終了です。
ピーリングは角質を人工的に剥離する治療法です。施術後の肌は多少の赤みやヒリつきなど、肌が敏感になることもあるので、紫外線対策と保湿をしっかりおこなう必要があります。
ピーリング後は角質がはがれているため、一時的に皮膚が本来もつバリア機能が低下するといわれています。そのため摩擦や紫外線の影響を受けやすく、刺激に対し肌が敏感になります。刺激を受けると色素沈着を起こしやすくなるので、紫外線対策をしっかりおこない、過度な洗顔などを避けるよう注意が必要です。
また、ピーリング直後の肌は不要な角質が除去されたことによって、水分が蒸散しやすい状態となります。このため保湿もしっかりおこないましょう。
サリチル酸マクロゴールピーリングの施術後は約12時間メイクを控えましょう。他のピーリングは施術直後のメイクは可能とされていますが、ドクターの指示に従ってください。
各医療機関によって異なりますが、ケミカルピーリングは顔全体で1回あたり5,000円~10,000円程度、ハイドラフェイシャルは顔全体で1回あたり20,000円~30,000円程度で受けることができます。また初診・再診料、イオン導入などのオプション料金が別途かかることもあるので受診時に医療機関へお問い合わせください。
ピーリング直後は古い角質が除去され美容有効成分などが浸透しやすくなるので、各種美容薬剤・美容施術を併用することで、より効果を高めることができます。
ピーリング施術後は古い角質が除去され、美容有効成分が浸透しやすい肌になっています。そのため肌悩みに合わせた薬剤等をイオン導入により浸透させることで、相乗効果が得られるといわれています。
1秒間に約300万回の超音波の振動を皮膚に与えて、一時的に角質層のバリアに空洞化現象を起こすことで美容有効成分を大量導入する施術です。
ピーリング施術によって角質がなめらかになると、レーザーや光を照射した際の光の乱反射が軽減されるため、ターゲットとなるシミなどに、よりアプローチができるといわれています。
エステティックサロンでおこなわれるピーリングと医療機関でのピーリングは薬剤の濃度に違いがあるといわれています。
厚生労働省が2000年に発表した資料によると、薬剤を用いて皮膚の表層を人工的に剥がすケミカルピーリングを業としておこなう場合は医業に該当すると明言されていますが、一方で、エステサロンなど医師免許を持たない事業者によってケミカルピーリングが提供されている事案もあると示されています。
参考文献:医師法上の疑義について
一方、エステティックサロンでは「ケミカルピーリング」は禁止されています。グリコール酸についてはph3.0以上、薬剤濃度10%以下であれば施術は可能とされていますが、万が一の肌トラブルを避けるためにも医療機関でドクターの診断のもと、ピーリング施術をうけることが安心といえるでしょう。
市販のピーリングは石鹸やピーリングジェルなどがあって、その多くにはフルーツ酸(AHA)と呼ばれる成分が配合されています。医療機関でのピーリングと比べ、刺激が少ないとされていますが、自己判断での誤ったピーリングにより必要な角質まで除去してしまい、新たな肌トラブルを引き起こすリスクも少なくありません。
医療機関でのピーリング施術はドクターの診断により、それぞれの肌質、症状に適した薬剤や施術をおこなうため、安全性と有効性の高い治療であるといえるでしょう。
また市販のピーリング剤が肌に合わない場合でも、医療機関でのピーリングを受けることによって症状が改善することもあるとされています。肌のターンオーバーを正しく整え、肌質を改善するためには、医療機関でドクターによる診断のもと、適切なピーリング治療をおこなうのが安心です。
(2021年1月更新)