レーザー治療は腫れや出血など体への負担が少ないため、美容医療がはじめてでも受けやすい施術のひとつといわれています。
レーザーにはさまざまな種類があるため、シミ・そばかす、肝斑、ニキビ跡、毛穴トラブル、小ジワ・たるみといった肌の悩みの改善、また脱毛など、症状や求める効果によってレーザーを選択して施術がおこなわれます。
より良いレーザー治療を受けるために、美容医療で使用されるレーザーの仕組みや種類、改善できる症状などを知っておくと安心です。
もくじ
レーザー(Laser)とは「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字をとった略語で「誘導放出による光の増幅」という意味があります。
太陽の光や白熱電球などの白色光は、複数の波長(波長)の集まりであるため、光を分散させる「プリズム」に通すと、7色に分離します。
対してレーザーは、光の波長から特定のひとつの波長(1色の光)を人工的に取り出して増幅したもので、光よりも鋭く一直線に進むという特徴をもっています。
光から波長を取り出すには、気体・固体・液体・半導体といった「レーザー媒質」がつかわれます。レーザー媒質には、炭酸ガス・ルビー・アレキサンドライト・イットリウム(Y)・アルミニウム(A)・ガーネット(G)などがあり、それぞれからつくられたレーザーは、レーザー媒質に基づいて「炭酸ガスレーザー」「ルビーレーザー」などと呼ばれます。
美容医療では、レーザーがもつ波長の特性がいかされています。そのほか照射時間と照射エネルギーのパラメータが重要です。
シミを改善したい場合、レーザーをシミがある部位に照射するとシミにだけ反応します。これはシミの原因であるメラニン色素にのみ波長が吸収されるためです。波長が吸収されると、熱や衝撃波が生じることで、メラニン色素が破壊あるいは粉砕されます。 細かくなったメラニン色素は、皮膚の新陳代謝(ターンオーバー)によって体外に排出され、シミが薄くなる効果が期待できます。
このように、レーザーの波長には特定の物質にのみ吸収されるという特性があります。美容医療では、メラニンの黒い色素やヘモグロビンの赤い色素などに吸収される波長のレーザーをもちいることで、シミ・そばかす・あざ・赤ら顔などを改善に導きます。
美容医療で使われるレーザーには、さまざまな種類があって、それぞれのレーザーの波長ごとに、吸収される皮膚の物質が異なります。そのため、ターゲットとする原因物質によって治療に適したレーザーを選択します。
おもなレーザーの種類 | 波長 | 吸収される皮膚の物質 | ||
---|---|---|---|---|
ヘモグロビン | メラニン | 水分 | ||
KTPレーザー | 532nm | 〇 | ◎ | |
ダイレーザー | 585nm~595nm付近 | 〇 | 〇 | |
ルビーレーザー | 694nm | 〇 | ||
アレキサンドライトレーザー | 755nm | 〇 | ||
ダイオードレーザー | 810nm~1450nm付近 | △ | 1450nmで〇 | |
Nd:YAG(ネオジムヤグ)レーザー | 1064nm | △ | 〇 | |
Er:YAG(エルビウムヤグ)レーザー | 2940nm | ◎ | ||
炭酸ガスレーザー | 10600nm | ◎ |
レーザーは、ある一定までは波長が短いほど皮膚表面に作用し、波長が長いほど皮膚深くに作用するとされています。これを「深達度」といい、それぞれのレーザー照射作用の指標とされています。
「Er:YAGレーザー」や「炭酸ガスレーザー」のように、水分に吸収されやすい波長は皮膚の表面ですぐに熱エネルギーに変わります。そのため、波長が長いものの深達度が浅いということになります。
レーザーの照射方法には、一定の時間をあけて間欠的に照射するパルス照射があり、パルス照射による1ショット当たりのレーザー照射時間を「パルス幅」といいます。
レーザー治療で肌の悩みを改善するためには、パルス幅も適切である必要があります。
適切なパルス幅とは改善したいシミなどのターゲットのみに熱作用がおさまるかということです。たとえばシミの改善において、シミのまわりの組織にまで作用が及ぶと正常な皮膚細胞もダメージを負う可能性が高くなります。
レーザーの作用がまわりに広がらず、シミだけにおさまる時間(熱緩和時間※)内であれば、まわりの皮膚組織へのダメージを防げることになります。熱緩和時間は、皮膚に存在する物質によって以下のように異なります。
※熱エネルギーを発したターゲットの温度が最高温度に達してから50%の温度まで下がるまでの時間
大きさ | 熱緩和時間 | |
---|---|---|
毛包 | 200μm~300μm (0.2mm~0.3mm) |
40ミリ秒~100ミリ秒 |
毛細血管 | 20μm (0.02mm) |
50マイクロ秒 |
メラノソーム※ | 1μm (0.001mm) |
50ナノ秒 |
美容医療においては、上記の熱緩和時間、つまりミリ秒(1000分の1秒)単位よりも短い時間のパルス幅のレーザーで照射する必要があり、レーザー治療で使用されるのは、以下のようなパルス幅のレーザーです。
ピコ秒(ps) | 1/1,000,000,000,000s(1兆分の1秒) |
---|---|
ナノ秒(ns) | 1/1,000,000,000s(10億分の1秒) |
マイクロ秒(μs) | 1/1,000,000s(100万分の1秒) |
ミリ秒(ms) | 1/1,000s:ロングパルス |
パルス幅がミリ秒単位のレーザーを「ロングパルスレーザー」、ナノ秒より短いと「ショートパルスレーザー」といいます。
ピコ秒単位のピコ秒レーザーは、ショートパルスレーザーということになります。
パルス幅がナノ秒のナノ秒レーザーは、「Qスイッチレーザー」といわれることがほとんどです。 QスイッチレーザーのQは、レーザーを作る装置の質をあらわすquality value(Q値)の頭文字からきていて、「Qスイッチ」は高いエネルギーのレーザーを出力する技術をいいます。
Qスイッチの技術により、レーザーのエネルギーをためて非常に短いパルス幅(ナノ秒単位)で一気に放出、発振できるようになりました。 ピコ秒レーザーもQスイッチによるレーザーですが、美容医療ではQスイッチレーザーといえば一般的にナノ秒レーザーを表します。
レーザー治療では波長やパルス幅以外に、照射エネルギー(フルエンス)も重要です。照射エネルギーが低いと十分にシミなどのターゲットを破壊できず、照射エネルギーが高すぎると、やけどや傷跡などが残る可能性が高くなります。
パルス幅がピコ秒単位になると、熱作用ではなく衝撃波で対象を粉砕します。衝撃波は瞬間のピークパワーが大きくなるため、低い照射エネルギーでも対象を粉砕できます。 つまり、パルス幅が短くなるほど瞬間のピークパワーが強くなるため、照射エネルギーが低くても小さな物質を粉砕することが可能になり、健康な皮膚組織が熱による損傷を負うといったリスクが低くなるということになります。
新しいレーザー治療原理を一言で言うと,照射時間が長ければ長いほど瘢痕をきたす可能性が高くなる,ということである.
レーザーはレーザー媒質で光から波長を取り出していて、それに基づいて炭酸ガスレーザー、ルビーレーザーなどと名前がついているため、レーザーの名前から波長がわかります。また、パルス幅と掛け合わせて呼ばれることもあり、その場合は「ロングパルスアレキサンドライトレーザー」「QスイッチYAGレーザー」などといわれます。
レーザーには、レーザー媒質やパルス幅以外の名称で呼ばれているレーザーもあります。
フラクショナルレーザーは、微細な多数の点状でレーザーを照射する方法です。全体にまんべんなく照射するのではなく、点状に照射して、あえてレーザーが当たる部位と当たらない部位を点在させます。それによって、レーザーが当たらなかった部位によってレーザーが当たった部位の回復がサポートされ、全体に照射するよりも皮膚の回復が早まるとされています。
フラクショナルレーザーとは、皮膚に対して治療面全面をレーザーで面照射するのではなく、正常皮膚を残した状態でマイクロビームを一定の密度で皮膚に照射することでその後の皮膚の創傷治癒機転にて皮膚のリサーフェシング効果を出そうという機器である
フラクショナルレーザーは、さらに2つのタイプにわかれます。
アブレイティブフラクショナルレーザーは、蒸散型のフラクショナルレーザーです。水が気体になることを蒸発といいますが、水分を蒸発させることで組織が気化することを蒸散といいます。
水分に吸収されやすいレーザーは「Er:YAGレーザー」「炭酸ガスレーザー」のおもに2つで、ほくろといった隆起のある肌悩みの改善に多く使用されます。皮膚を削るように施術するため、かさぶたを作りますが、大きな症状改善が期待できます。
ノンアブレイティブレーザーとは“蒸散”させないレーザーのことを指します。アブレイティブレーザーと比べ、皮膚へのダメージを抑えながら効果を期待できることから、多くおこなわれている照射方法です。レーザーは、1200nm~1500nmあたりの波長が使われます。この波長帯のレーザーは水分の吸収率が程よく、肌のハリや弾力に影響するコラーゲンやエラスチンがある真皮層に熱による刺激を与え、それらを増生する線維芽細胞の働きを活性化するとされています。
また、水分の吸収率が緩やかな波長のレーザーを用いるため、アブレイティブレーザーのように目に見えるかさぶたを作ることはほとんどありません。
レーザートーニングは肌のトーンをアップする目的で使用されます。肌質や色素の改善などが期待でき、肝斑の治療としても多く使用します。
なおレーザー単体での肝斑への効果は懐疑的な見方も多く、トラネキサム酸などと併用される治療が多くおこなわれています。肝斑は紫外線による影響・ホルモン変化・ストレス・遺伝的素因・真皮の血管作用などの要因が関係するといわれています。
治療法としては高周波(RF)治療、血管病変へ作用する色素レーザーによる治療、光治療、レーザー治療などさまざまな研究がおこなわれていますが、いまだに“確実な治療法”がないとされています。
ロングパルスNd:YAGレーザーやロングパルスアレキサンドライトレーザーで、肌からレーザー照射面を離して中空照射する方法です。刺激がマイルドなため、特定の肌悩みの原因を破壊するのではなく治療回数を重ね、顔全体を施術することで真皮層のコラーゲンなどを増生し、ハリ感の向上促す作用があるとされます。
レーザー媒質やパルス幅、照射方法、治療方法といったさまざまな軸でレーザーを分類できますが、美容医療機器メーカーによって多様なマシンが開発されています。
「ピコ秒レーザー」「Qスイッチレーザー」「レーザートーニング」などには、それぞれに複数のマシンが存在することになります。
ある医療機関では「ピコ秒レーザー」という施術メニューでよばれているものが、ほかの医療機関では「ピコシュア」というマシン名で呼ばれているなど、医療機関によって名称もさまざまです。
レーザー治療と似て異なる光治療は、レーザーと比較するおだやかな光のエネルギーを照射するので、ダウンタイムは短い傾向にあります。
また、レーザーは特定の波長であるのに対して、光にはさまざまな波長が含まれるので、シミ・そばかす、肌の赤みなど、異なる肌悩みに同時に働きかけることができます。そのため、複数の肌悩みにアプローチするなら光治療、部分的な肌悩みに作用させたい場合はレーザー治療が適しているといえます。
ただし、さまざまな波長をもっているために、エネルギーが分散され、それぞれの悩みに対して特異的にエネルギーを与えることがむずかしく、効果は比較的におだやかとされています。
高周波(ラジオ波・RF)は光と同様に、電磁波の1種です。高周波の周波数帯は、ラジオの周波数帯であることからラジオ波、英語のRadio Frequencyの頭文字をとってRFともいわれます。
レーザーは強いエネルギーを短時間で照射しますが、高周波は比較的弱いエネルギーを長時間あてて体の深部を加熱します。それによって血流と代謝力を促進して、肌のハリ改善や痩身効果を目指します。また、光治療と高周波治療が一度に施術できるマシンもあります。
HIFU(高密度焦点式超音波治療)は約70℃ほどの点状の熱で、皮膚表面を傷つけずに真皮層や、その下にあるSMAS層(表在性筋膜)に作用します。深いシワやたるみの改善、痩身効果が期待できます。また、高周波(RF)治療と比べて照射部位によっては痛みが強い傾向がありますが、効果が高いたるみ治療といわれています。
脱毛やLED、RFなど家庭用美容器もさまざまな機種があり、誰でも手軽に購入することができます。しかし、家庭用美容器と美容医療のレーザーマシンには、薬機法でさだめられたルールにより明確な違いがあります。
家庭用美容器は誰もが安全に使うことができて「肌・体の構造、機能に影響をあたえないもの」となります。このため家庭用美容器には「小顔になる」「シワやシミが消える」「たるみ改善」などの効果効能はなく、広告での表現も違法です。美容医療マシンは、国家資格をもった医療従事者のみあつかうことができます。
メラニンに吸収される波長で施術がおこなわれ、破壊されたメラニンはターンオーバーにより肌の表面に徐々に押し出されて自然に排出されていきます。
施術部位は照射方法によっては薄いかさぶたのようになることもありますが、1週間~10日程度で自然に剥がれ落ちます。施術後、テープ保護や軟膏塗布が必要な場合があります。
皮膚は外側から表皮層、真皮層と層状になっています。肝斑はおもに表皮層にあらわれますが、真皮層に混在しているものもあります。
そのため治療としては、表皮層に作用する光治療マシンでおこなわれることもありますが、肝斑は摩擦などの刺激で悪化するといわれていて、ナノ秒レーザー、ピコ秒レーザーを使用し、刺激を与えないよう低出力で照射するレーザートーニングとトラネキサム酸の内服を併用する治療が一般的です。
小ジワや初期のたるみであればレーザー治療での改善が期待できます。皮膚の真皮層にレーザーの熱エネルギーを与えると、ハリや弾力を保つコラーゲンやエラスチンを増生する線維芽細胞が刺激されて、真皮層の機能が活性化するとされます。真皮層が活性化することで真皮層の上にある表皮層の状態も向上し、ニキビ跡や毛穴の開きなど、全般的な肌質改善がされるといわれています。
直後は赤みやほてり、ひりつきが出る場合もありますが約2日~3日で治まるといわれています。施術後のメイクは可能とされますが、レーザーの種類によって24時間はメイク不可の施術もあるためドクターに事前に確認してください。
まれに、ほくろでなく悪性黒色腫(メラノーマ)の場合もありますので、気になる場合は早期の受診が大切です。隆起のあるほくろは、皮膚を削るような施術になるのでかさぶたになることがほとんどですが、1回の施術で 治療が完了することも少なくありません。
シミやほくろと同様に皮膚の中にある色素のみに吸収される波長のレーザーで施術します。以前は施術できる色素が限られていましたが、ピコ秒レーザーの登場により赤、青など多彩な色素も除去しやすくなったといわれています。
刺青除去やあざの治療は施術部位の大きさなどによって治療回数が異なり、多くの場合は繰り返しの施術が必要です。
レーザーを毛のメラニンに照射し、毛を育てる毛母細胞と細胞を生み出すバルジに熱ダメージを与えることで脱毛をおこなうことが可能とされます。 毛の成長に関わる細胞に熱作用によるダメージを与え、破壊することで新たな毛の成長をストップさせます。
毛には毛周期といわれるサイクルがあり、脱毛の施術では成長期のサイクルにある毛を照射します。毛周期は毛ごとに異なるため、複数回施術を繰り返す必要があります。
症状や施術する部位にもよりますが、レーザー治療は照射方法によっては輪ゴムで弾かれたような痛みが生じる場合があります。医療機関によって、治療部位に局所麻酔(クリーム・テープを含む)が用いられます。
施術後は赤みやほてりを感じることもあります。その際は保冷剤を清潔な布などに包んで患部を冷やしてください。これらの症状はほとんどの場合は数時間から数日以内に鎮静するとされます。
施術後の肌は乾燥しやすいため、しっかり保湿ケアを心がけてください。外出時には紫外線対策をしっかりおこない、患部のマッサージや過度な洗顔による摩擦などで肌を刺激しないよう注意が必要です。
過度な血行促進によって照射部位の赤みやかゆみが増してしまう可能性があるので、当日は飲酒や長時間の入浴、激しい運動などは控えるべきです。また、かゆみのある部位を刺激することは合併症の原因にもなるので、冷やすなどして対処ことが推奨されています。
レーザー治療は基本的に年中いつでも可能ですが、治療後は紫外線を防ぐことが大切です。そのため、「徹底した紫外線予防ケアに自信がない」「屋外活動が多い」という方などは紫外線が強く降り注ぐ春夏をさけ、秋冬に施術をおこなうのも検討するべきです。
注意したいのは結婚式やイベントへ向けての施術です。照射方法などによっては一時的にかさぶたになることもありますので、万が一の肌トラブルに対応できるよう余裕ある時期での施術を計画してください。
過度なスキンケアや美容施術が原因でおこるといわれる「ビニール肌」。これは一見、ツヤがあり、美しい肌と思われがちですが、強い摩擦をともなう間違ったスキンケアや、肌代謝の周期を無視した短期間でのピーリングやレーザー照射によってキメが摩耗してしまった状態のことです。
「キメが細かい」「キメが整っている」など肌の美しさを表すキメとは、皮膚表面にある皮溝(ひこう)と皮丘(ひきゅう)とが規則正しく並んでいる状態をあらわします。紫外線や摩擦、過度なスキンケアによってこの並びが乱れると、皮膚のバリア機能が弱まり保水力が失われて、肌荒れや老化を招く原因となるため注意が必要です。
適切なレーザー施術であればビニール肌となる心配はありません。ドクターの診断のもと、正しい周期で症状にあった治療により、若々しく美しい肌を目指してください。