KO CLINIC
形成外科専門医 日本形成外科学会 日本レーザー医学会(評議員) 日本美容外科学会 日本美容皮膚科学会 日本乳房オンコプラスティックサージャリ―学会 日本抗加齢医学会
ピコ秒レーザー(以下ピコレーザー)とは、レーザーの衝撃波(光音響効果)でメラニンやタトゥーインクの色素を粉砕できるレーザーです。そのためQスイッチレーザーでは、小さすぎて破壊できなかった色素粒子を粉砕することが可能で、施術後にかさぶたや色素沈着になるリスクを軽減しながら肌悩みを改善できるとされています。
しかし、まれに「シミが消えない」「変化がない」などピコレーザーの施術効果を感じられないといったケースもあるとされています。色素を粉砕したり肌のくすみのトーンアップ、肌質改善など多くの特長をもつピコレーザー。その効果やリスクなどを施術前に確認し、適切な治療を受けることが大切です。
ピコレーザー(ピコ秒レーザー・ピコセカンドレーザー)とは、レーザーの照射時間がピコ秒(1兆分の1秒)単位で照射が可能なレーザーです。
ピコレーザーは照射時間が極めて短いことから熱発生がほとんどないため、皮膚への負担が少なくダウンタイムも、比較的短いといわれています。
レーザーとは複数の波長を含む光から特定の波長を取り出し、増幅してつくられる人工的な光のことです。光やレーザーの波長には特定の物質に吸収されるという特性があり、波長が特定の物質に吸収されることで熱エネルギーが生じます。これらは太陽光が皮膚にあたると温かく感じることと同じ現象といえます。
美容医療によるレーザー治療では、メラニンの黒い色素やヘモグロビンの赤い色素などに吸収される波長のレーザーを使用して、シミ・そばかす・あざ・赤ら顔など、さまざまな肌悩みの原因を破壊することにより改善に導きます。破壊された色素は皮膚の代謝(ターンオーバー)により排出されます。
レーザー治療の際、照射エネルギーが低いと効果は期待できず、また高すぎるとシミなどの肌悩み以外の健康な皮膚にまで熱ダメージを与えてしまいます。適切な治療をおこなうためには、症状ごとに波長を選択することはもちろんのこと、レーザー照射時間・照射エネルギーが重要です。
たとえばシミにレーザーを照射し続けると、シミの周囲の皮膚組織にも熱作用が影響します。これは波長がシミに吸収されて熱エネルギーが生じ、放熱することで照射周囲の皮膚組織に熱が伝わり、表皮温度が上昇するためです。
波長を吸収したシミは徐々に放熱するため、しばらくの間は熱が留まります。熱作用がシミにおさまり、周囲の皮膚組織に広がらない時間(熱緩和時間)内であれば、周囲の皮膚組織へのダメージを防ぎながら、シミの部位を破壊することができるとされています。
レーザーの照射方法には連続照射ではなく、一定の時間をあけて間欠的に照射するパルス照射という方法があり、このレーザー照射時間を「パルス幅」といいます。パルス幅が熱緩和時間内であれば、周囲の皮膚へのダメージを抑え、ターゲットの部位のみを破壊できるといえます。
レーザー治療で使用されるレーザーには以下のようなパルス幅があり、パルス幅がピコ秒単位のレーザーをピコレーザー(ピコ秒レーザー・ピコセカンドレーザー)といいます。
ピコ秒(ps) | 1/1,000,000,000,000s(1兆分の1秒) |
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ナノ秒(ns) | 1/1,000,000,000s(10億分の1秒) |
マイクロ秒(μs) | 1/1,000,000s(100万分の1秒) |
ミリ秒(ms) | 1/1,000s:ロングパルス |
レーザーはパルス幅が短くなることにより、照射エネルギー(フルエンス)が低くても、衝撃波によって小さな物質を破壊できるようになります。局所的でありながら破壊力は大きく、シミなどの部位のみに衝撃をおさめて、粉々に砕くことができるのです。パルス幅が短いピコレーザーは照射エネルギーが低いため、照射部位以外の周囲の正常な細胞が損傷することはほとんどありません。
ピコレーザーは小さな物質を粉砕する施術を得意とします。大きな物質を破壊するには、パルス幅を長くして熱エネルギーを与える必要があります。そのため、毛をつくる器官である毛包(脱毛)や、血管(赤ら顔や毛細血管拡張症治療)のような大きなターゲットを照射する施術では、ピコレーザーではなくパルス幅が長いロングパルスレーザーが使用されます。
シミ・そばかす・あざやタトゥーなどの色素を薄くしたり除去する施術は、Qスイッチナノ秒レーザー(以下Qスイッチレーザー)でおこなわれることが一般的でした。
Qスイッチレーザーによるシミ治療やタトゥー除去の施術では、回数を重ねて色素が薄くなるとレーザーの照射エネルギーを上げる必要があり、照射部位の周囲の皮膚組織に負担を与えることになります。そのため、やけどや水ぶくれ・炎症後色素沈着を引き起こすリスクが高まる傾向にあるといえます。
対してピコレーザーは、低い照射エネルギーによる衝撃波で、照射部位の周囲の組織にほとんどダメージを与えることなく、シミのメラニン顆粒やタトゥーの色素粒子を粉砕し除去ができるとされています。
レーザー治療をおこなった後、シミが再発したような状態になることは少なくありません。これはレーザー照射によって炎症が起きたことで、メラニンを産生する細胞(メラノサイト)が刺激されたことで引き起こります。炎症後色素沈着は、施術後4週間後あたりからあらわれるので、一度除去したシミが再発したように見えるのです。
炎症後色素沈着はシミではありません。また炎症後色素沈着はメラノサイトの活動が落ち着いたのち、皮膚の新陳代謝であるターンオーバーによって3カ月~6カ月程度で、自然に除去されるとされています。
Qスイッチレーザーによる施術では、炎症後色素沈着が起きるリスクは、30%~50%とされています。レーザーの照射方法などで変わりますが、ピコレーザーで炎症後色素沈着が起きるリスクは、Qスイッチレーザーのおおよそ半分以下の発生率での報告が散見されます。
波長による違いはありますが、パルス幅で比較すると、ピコレーザーのパルス幅はQスイッチレーザーの15倍~100倍ほど短くなります。パルス幅が短くなるほど低い照射エネルギーで済むため、周囲の正常な皮膚組織がダメージを受けるリスクが軽減されます。このことから、ピコレーザーによる治療は炎症後色素沈着は起こりにくいといえます。
ピコレーザーは低い照射エネルギーの衝撃波でシミなどを粉砕するため、脱毛や赤ら顔などの大きな物質を狙う施術は得意ではありませんが、光治療(IPL治療)やQスイッチレーザーでは取り残してしまう密度の低い色素粒子にアプローチが可能とされています。
ピコレーザーは、光治療やQスイッチレーザーでは取り切れなかった薄いシミでも、炎症後色素沈着のリスクが少なく、さらに薄くすることが可能といえます。
ピコレーザーのマシンでは、フラクショナル照射・トーニング照射・スポット照射・の3つの照射をおこなえることが大きな特長です。
フラクショナル照射は、皮膚に点状にレーザーを照射します。照射をしない部位と照射をおこなう部位を点在させることで、皮膚の回復が早まるとされます。皮膚は大きく分けると外側から表皮層、真皮層の2層構造になっていて、2層目である真皮層にはコラーゲンやエラスチンといった皮膚の弾力を補う線維を作り出す線維芽細胞が存在します。ピコレーザーによるフラクショナル照射(ピコフラクショナル)で、真皮層の線維芽細胞に適度な刺激を加えることでコラーゲンなどが産生され、真皮の再構築を促します。
ピコレーザーによるフラクショナル照射は、肌のハリ感が向上し毛穴が引き締まる、また小ジワやニキビ跡の改善を目指すとされています。
ピコフラクショナルによる一つひとつの照射のドットは、レーザー光が一点に収束して(集まって)います 。そのためフラクショナル照射以外の施術と比較すると 、何倍もの強い衝撃波が真皮層に作用し、真皮層にある毛細血管にダメージが加わることから、点状出血が生じる場合があります。ただし表皮層を傷つけないため数日で回復するとされ、医療用のコンシーラーなどでカバーすることでダウンタイムを過ごすことができるといわれています。また、メイクは当日から可能とされています。
レーザー照射の痛みが心配な場合は、クリームタイプの麻酔で痛みを緩和することができます。
トーニングとは、メラニンの産生元となる細胞(メラノサイト)を刺激せずに、表皮層の細胞(ケラチノサイト)内のメラニン顆粒を消失させ、表皮のターンオーバーを促進させていく治療法です。
ピコレーザーによるトーニング照射(ピコトーニング)は、Qスイッチレーザーより低い照射エネルギーでも効率的に施術できるので、よりメラニンの産生元の細胞(メラノサイト)を刺激することなく、肝斑の改善や薄いシミをさらに薄くすることが期待できます。
ピコトーニングは低い照射エネルギーを使用する場合、痛みやダウンタイムはほとんどありませんが、高い照射エネルギーでの施術では麻酔をおこなうこともあります。また赤みや目の下などに点状出血が生じることがありますが施術数時間後、もしくは数日内に治まることがほとんどです。なおメイクは当日から可能とされています。
ピコレーザーによるスポット照射(ピコスポット・ピコショット)では、施術回数を重ねて色素が薄くなっても、Qスイッチレーザーのように照射エネルギーを高くする必要がありません。そのため、少ない施術回数で健康な皮膚組織に傷(瘢痕)をつくることなく、色素除去できるといわれています。
Qスイッチレーザーと比較すると、炎症が少ないのでかさぶた(瘢痕形成)やあざ(紫斑形成)の程度は軽微とされ、Qスイッチレーザーによる施術のように照射部位をテープで保護する必要がない場合もあります。メイクは翌日からとされています。
痛みが心配な場合は、クリームタイプの麻酔で痛みを緩和することも可能です。
ピコ秒単位でレーザーを照射できるマシンは、それぞれのマシンごとに、波長・パルス幅が異なります。
ピコフラクショナルは14,000円~100,000円程度、ピコトーニングは10,000円~50,000円程度、ピコスポットは医療機関によって料金設定が異なります。多くの場合、1部位、1ショット、1㎠あたり、などで設定されています。
ピコレーザーマシンのなかには、未承認機器もあります。また保険適用外の自由診療となるため、全額自己負担、料金は医療機関によって異なります。
日本国内での承認 | 認証取得 30200BZX00153000 :サイノシュアー株式会社 |
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FDA(米国食品医薬品局)での承認 | K173199:FDA |
日本国内での承認 | 認証取得 23000BZX00270000 :シネロン・キャンデラ株式会社 |
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FDA(米国食品医薬品局)での承認 | K191685:FDA |
日本国内での承認 | 認証取得 22800BZX00138000 :キュテラ株式会社 |
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FDA(米国食品医薬品局)での承認 | K182997:FDA |
日本国内での承認 | 認証取得 30100BZX00216000 :WONTECH JAPAN株式会社 |
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FDA(米国食品医薬品局)での承認 | K181272:FDA |
日本国内での承認 | 認証取得 22700BZI00042000:ビッグブルー株式会社 |
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FDA(米国食品医薬品局)での承認 | K191842:FDA |
SPECTRA PICOは厚生労働省未承認の医療機器です。 | ||||
医療機器の入手経路:入手経路は各医療機関のドクターによるメーカーからの個人輸入です。 個人輸入において注意すべき医薬品等について(厚生労働省のページ) |
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日本国内での承認の有無:SPECTRA PICOと同一の性能・作用があり、日本国内で承認を受けている医療機器はありません。 | ||||
諸外国における安全性等に関する情報:SPECTRA PICOは米国のFDAから下記の承認を取得しています。[※1]
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[※1]K113588:FDA
記事を監修していただいた黄 聖琥先生にピコレーザーについてお話を伺いました。
監修医師の紹介
KO CLINICの院長である黄 聖琥(こう せいこ)医師。画像診断機による解析で適切な施術をおこなう「カスタマイズ治療」の第一人者として、これまで多くの学術会・講演会に登壇する。平成19年より肝斑の臨床研究を開始、現在では複数台のピコレーザーを使用した治療法を多くのドクターや医療従事者へ指導。健康的で美しい素肌を目指すスキンケア医療を主体とした施術を確立。おもな著書に「素肌がきれいになると人生が変わる!」他多数。