美容整形に興味のある方なら「美人顔の条件とは何か」について、一度は考えたことがあるかもしれません。目や口といったパーツ単体の特徴、骨格や肌質などさまざまな切り口がありますが、人中(にんちゅう、もしくはじんちゅう)といわれる鼻下から上唇までが短い人は、若々しい雰囲気の美人とされる傾向にあります。
美容医療のひとつである人中短縮術は、鼻下の皮膚を数ミリ切除して人中の長さを短くする施術で、「鼻下短縮術」「上口唇短縮術」「リップリフト」ともいわれます。人中は顔の中心付近にあって見た目の印象を大きく左右することから、人中短縮術に興味のある方は多くいます。しかし、単純に人中の長さだけを調整すれば顔全体の印象が整うわけではありません。唇の厚さ、顎の大きさなど顔の下半分の各パーツや輪郭との兼ね合いでバランスを考える必要があります。
人中短縮の効果や手順、そしてリスクを正しく理解するには、関連する美容施術もふくめて知っておく必要があります。施術のメリットだけでなくデメリットや他の選択肢も把握しておくことは、失敗のリスクの軽減につながります。
人中とは鼻と上唇の間の中央に縦に通っているくぼみの部分を指します。人中が長いと、顔全体が長く見えたり間延びしたのっぺり顔に見られます。反対に人中が短いとメリハリのある美しい顔立ちに見えるといわれています。
一般的に美人の人中の長さは1.0cm~1.5cmといわれますが、短ければ良いというわけではありません。鼻下と唇の中心の間と唇の中心と顎の間が「1:2」であることが美人の黄金比率だとされていて、鼻の形や唇の厚さ、顎の大きさなど顔の下半分のバランスから整って見える人中の長さを考えます。
人中短縮術では、物理的に人中を短くして上唇に鼻を近づけることができます。顔の下半分のバランスを整えて黄金比を目指すことで、若々しく美しい印象を手に入れられるとされます。生まれつき人中が長い方もいますが、加齢によるたるみが原因で長くなる場合もあります。
人中は目につきやすい部位のため鼻から下の顔のバランスに悩む方や、加齢で人中が長くなった方が若々しく見られたいという理由で受けられる施術です。
ただし「人中が短ければ美しくなる」という固定概念をもって施術を受けることはおすすめできません。あくまで顔全体のバランスが整うことが大切です。人中を短くする必要はなく、目もとの整形や顎など輪郭の整形で印象が変わるかもしれませんので、ドクターのアドバイスを聞いて人中短縮術を受けるかどうか検討してください。
手順として、口輪筋を切除してしっかりと縫合するやり方と口輪筋は切除しないやり方がありますが、口輪筋を切除・縫合するやり方は、手術直後の状態より皮膚が下に下がる後戻りを防ぐためとする医療機関もあります。切除する皮膚はさほど多くはありませんが、傷跡が目立ちやすい部位でもあるので、デザインとともに縫合の技術も求められます。
デザインを決め鼻下の皮膚を切開切除
上唇の二つの高まりと鼻柱(鼻の穴と穴の間の部分)のねもとの左右を結んだ位置関係を崩さないよう、切開する範囲を決め、鼻の下にマーキングします。マーキングしたラインに沿って皮膚を切開、切除します。
口輪筋を切除する
皮膚を切除したところで口輪筋(唇の周囲を取り囲む筋肉。唇を閉じたりすぼめたりする時に使う)を露出させて中心部分を切除します。
口輪筋を引き上げる
鼻柱の付け根にある軟骨に、口輪筋を糸で固定して引き上げます。
縫合する
鼻下の輪郭に沿って縫合して、患部を冷やして終了です。
性別は関係ありません。人中短縮術では引き上げられた上唇が厚みを増し、ふっくら見えるようになります。可愛らしく色気のあるように見える唇に憧れる若い方や、口まわりの若返りを希望する方が対象となります。
人中短縮術をおこなうことで上唇や歯茎、鼻の形態も変わる可能性があります。そのためドクターとのカウンセリングでは、鼻下以外の部位の自身の特徴からも、人中短縮術が悩みを改善する方法であるかを確認する必要があります。
矯正治療中に人中短縮術を受けることは可能ですが、歯の状態によっては矯正治療することで人中の長さの見え方が変わることがあったり、施術によって上唇の厚さや歯茎が見えるバランスが変わると、矯正治療計画に影響を及ぼす可能性があります。そのため矯正歯科、美容整形、双方のドクターと事前にしっかりと相談して計画を立てるようにしてください。
人中短縮は一度の手術で半永久的な効果が期待できる一方で、元に戻すことができない施術です。人中短縮術を受けたことで顎の長さや歯茎、鼻の形などほかの部位が強調されてしまい、「失敗した」と後悔することがないよう事前にしっかりとしたカウンセリングを受けて、納得して施術を受けるようにしてください。
なお仕上がりに不満な場合、切除した皮膚を元に戻すことはできませんが、さらに短縮させるために再度施術を受けることは可能です。
抜糸の時期 | 7日目 |
---|---|
通院回数 | 翌日傷チェック、7日目抜糸、1カ月後、3カ月後、6カ月後の経過のチェック |
ケア | 翌日以降は自分で傷の消毒を実施。傷再生テープを利用(施術後3カ月間) |
洗顔・メイク | 患部以外は当日から、手術部位は抜糸翌日から可能 |
シャワー・入浴 | シャワーは当日、入浴は翌日より可能 |
施術後1週間程度は鼻下(上口唇)の腫れや内出血、しびれなどがありますが、それらの違和感は経過とともに解消されます。また、鼻の穴の前に横向きの傷ができるとケロイドのように赤くなる傾向があります。傷は徐々に縮んで治っていく性質があるため、本来の口もとの動きが制限されて、硬く突っ張るような状態(拘縮)になることもあります。
1カ月〜2カ月で傷跡の赤みと硬さがピークとなって、3カ月〜6カ月かけて落ち着いていきます。赤みがひいて傷跡が柔らかくなるには施術後6カ月程度を要します。
人中短縮術を受けた後、ダウンタイム中はどのようなことに気をつけて過ごすべきなのか、実際に施術を受けた方の声などを参考に確認していきます。
口輪筋を引き上げて固定するため、鼻の下を伸ばすような仕草は避けるべきです。また口が閉まりにくくなったり、思い切り笑うと傷口が引っ張られて痛む可能性があります。鼻をかむ場合も注意が必要です。施術後1カ月位までは鼻をあまり強くかまず、軽く拭き取るようにしてください。
いつも通りに歯磨きは可能ですが、施術後数日間は痛みが気になる方も多いようです。またストローは吸おうとすると患部に力がかかって痛むため、施術後数日は使えません。
制限はないため、施術後数時間で食事をしている方もいます。ただし口を大きく開けられず、傷跡まわりに硬さも出てくることから、こぼしてしまうとか時間がかかるという声が多く聞かれます。食べるときに大きな口を開けずに咀嚼が少なくて済むスープにするなど、メニューを工夫するといいかもしれません。
(1)ドクターによる診察、カウンセリング
診察当日の施術可否の判断については医療機関ごとで異なります。
(2)切除部位のマーキング
メイクは落とした状態で施術に臨みます。鼻の下に切開するラインを記します。
(3)麻酔・手術
局所麻酔をしたあとマーキングにしたがって切開、切除を行い縫合します。
(4)クーリング
患部を冷やして終了です。
入院の必要性 | なし。ただし事前にカウンセリング、感染症検査を実施した上で施術予定を決定。 |
---|---|
施術時間 | 約1時間 |
麻酔の有無 | あり。局所麻酔でおこなう。静脈麻酔・マスク麻酔などを追加して術中の痛み緩和を行う医療機関もある。 |
手術日の制約 |
歯科治療を受けている方は、同日の施術は避ける。 |
耳の軟骨(耳介軟骨・じかいなんこつ)を鼻先に移植することで鼻先の高さを整える施術です。鼻先の高さを出したい・鼻先の丸みを改善したい・横にボリュームがあるダンゴ鼻を改善したいなどの悩みを解決します。軟骨を入れて鼻先を下向きに伸ばすことで、より人中が短く見えるようになるため、人中短縮術と併用される場合があります。
人中短縮術1回あたりの費用感は概ね200,000円〜400,000円(税抜)です。
ただし医療機関やドクターによって施術内容が異なること、また他の施術を同時に受ける場合もあることから一概にはいえません。
人中短縮術を受ける方の悩みが最初から「人中の長さ」であるとは限りません。憧れの女性の顔立ちに近づける方法を探している方や面長が悩みで小顔にしたいという方、若々しい印象にするために効果的な施術を検討している方など、動機や目的は人それぞれです。
そのため一人ひとりの顔立ちや特徴も踏まえて他の施術を併用したり、人中短縮術ではない他の施術の方が効果的であると判断されることもあります。
人中を短縮する方法には、鼻下の皮膚を施術する方法のほかに、上唇の位置を引き上げることで鼻下から上唇までの間を短くする方法もあります。上唇の位置を引き上げる方法は、口角をあげる「口角拳上術」と上唇の上の皮膚を切除する「上口唇拳上術」の2つです。
口角挙上術や上口唇挙上術は、鼻下を切開する人中短縮術と比べると切開する範囲が小さいため、傷跡が治りやすいのが利点です。上唇が巻き込んだような形の方、鼻下から上唇の距離より、目の下から上唇の距離の長さが際立つ方に向いています。また総合的なバランスを整えるために、人中短縮術と併用される場合も少なくありません。
人中短縮術は「内側人中短縮」、口角拳上術や上口唇拳上術は「外側人中短縮」とよばれることがあります。
上口唇の端の皮膚を切って口角を持ち上げることで、下がった口角を引き上げ微笑んでいるような明るい印象にする施術です。もともと口角が下がり気味な方、加齢により徐々に下がってしまった方に効果的です。人中短縮術には上唇の引き上げ効果がありますが、口角までは引き上げることができないため、よりバランスの良い美しい唇を求める方には人中短縮術との併用がすすめられます。なかには糸リフトにより口角拳上術をおこなう医療機関もあります。
皮膚を切開せず、注入施術で口角を引き上げたように見せる方法もあります。ヒアルロン酸注入では唇にヒアルロン酸を注入することで、目の錯覚を利用して口角が上がったように見せることができます。また、ボツリヌス注射では口角を下げる筋肉を弛緩させることで口角が下がらないようにします。ただし注入施術は継続期間が1年半程度です。適切なタイミングで再注入をすることで効果が長続きする場合もあるので、ドクターとよく相談してください。
「上唇の形状を整えたい」「上唇をふっくらさせたい」「口角が下がって見えるのを改善したい」というニーズに適しているアプローチ。上唇の上を沿うように皮膚を切開して切除します。口角拳上術を併用される場合も多くあります。
人中短縮を実現するために、鼻に対する施術が有効な場合もあります。 鼻中隔とは鼻腔を左右に分けている壁のことです。鼻中隔延長術とは、鼻中隔や耳、胸部より軟骨を移植して鼻中隔を延長して、鼻先を下げることで上向きの鼻や短鼻を改善・予防する施術です。 鼻先が上を向いている方や鼻が短い方、鼻下(鼻先から上唇までの距離)が長い方に向いています。特に鼻自体が短いために相対的に鼻下が長く見える方は、人中短縮術よりも鼻中隔延長術で鼻自体を長くすることを優先した方が効果的と考えられます。
口角挙上術や上口唇挙上術ではなく、唇そのものを厚くする口唇拡大術も人中短縮に有効とされる施術の一つです。人中短縮術の場合、鼻下の皮膚を切除することに加えて口輪筋を釣り上げます。それによって唇が厚くなることも鼻との距離を小さく見せる効果があるため、口唇拡大術で唇を厚くすれば目の錯覚で鼻下が短く見えるという視覚的な効果が期待できるのです。
口唇拡大術には口唇裏側の粘膜を切開して引き出した粘膜を外側に向けて縫合することで上唇を大きく見せる皮弁形成法、脂肪注入、ヒアルロン酸注入などの方法があります。唇の厚さを整えることでバランスが改善できそうな方には、人中短縮術よりも身体への負担も少なく、気軽に受けられる選択肢の一つといえます。
皮弁形成法での口唇拡大効果は2mm~3mmほどといわれており、施術を繰り返しおこなう必要がないことが利点です。脂肪注入やヒアルロン酸注入の場合は手術ではないため継続期間が1年半程度です。維持したい場合には繰り返しおこなう必要があります。
人中短縮には興味があるが切りたくないという方には、目の錯覚を利用して人中を短く見せる人中短縮メイクがあります。
鼻と口の距離を短く見せるだけでなくぽってりとした唇を演出できるため、若々しさや色気のある印象を与えます。
人中短縮メイクのメリットは、医療機関に行くことなく自分で手軽にできることです。ただ、そのぶん毎日メイクに時間がかかるため面倒であることは否めません。メイクでは自分が求める短縮効果は得られないと感じて、抜本的な改善を希望される方には、物足りない選択肢かもしれません。
整った美しい顔立ち、色気のある口もと、若々しさ、小顔、童顔……。人中短縮に興味のある方が想い描く理想の姿は十人十色です。それほど人中を中心としたバランスの改善が顔立ちの印象に与える影響が大きいということです。
人中を短縮させるにはさまざまな手法がありますが、基本的に効果を持続させたい場合には切る施術が前提となります。一度施術を受けると切った皮膚を元に戻すことはできません。そのためまずは自分にとって本当に必要かじっくりと考えるべきです。
施術を受ける場合は、人中短縮の症例が豊富で解剖学に精通しているドクターが在籍しているかや、併用して受けることで相乗効果が期待できる施術を取り扱っているかなど、情報を集めて慎重に医療機関を選んでください。
また、自身の顔のバランスを整える方法は、人中を短くすることではない場合もあります。目や鼻、顎まわりなどほかの部位との全体のバランスを見て、施術を検討してくれるドクターであれば安心です。