
脂肪溶解注射は、脂肪細胞を破壊して体内の脂肪細胞の数を減らすことで、痩身を目指すことができる美容の施術です。
以前の脂肪溶解注射は施術後に腫れが生じやすく、長いダウンタイムをともなう薬剤がほとんどでしたが、さまざまなメーカーから新たな薬剤が開発されたことによって、施術後の腫れが生じにくくなりダウンタイムも短くなったことから、昨今では体に限らず顔への注入もできる薬剤が増えてきました。
脂肪溶解注射は薬剤の種類によって含有成分や作用が異なり、また、不適当な注入量で施術をおこなった場合、脂肪細胞の過度な減少によって頬がこけて見えてしまうなどのリスクもあります。顔への脂肪溶解注射で、より安心して小顔を目指すためには、薬剤ごとの特徴や顔の部位ごとの適切な注入量、リスクについて事前に知っておくことが大切です。
皮下脂肪の減少が期待できる脂肪溶解注射
フェイスラインや頬、二の腕、腹部、太ももなどに存在する皮下脂肪は、脂肪細胞が複数集まってできている脂肪組織のひとつです。脂肪細胞は摂取したエネルギーを脂肪として蓄える働きがあり、エネルギーを蓄えれば蓄えるほど肥大化して、肥満となったり顔が膨らんで見えたりします。
運動や食事制限といった一般的なダイエットは肥大化した脂肪細胞を小さくすることで顔痩せや痩身を目指すものですが、脂肪細胞の数自体は減少することがないので、過剰なエネルギー摂取をおこなった際などに再び肥大化してリバウンドしてしまうリスクがあります。
一方で、脂肪溶解注射は、脂肪細胞自体を破壊したり体外への排出を促す作用が期待できる薬剤を脂肪組織に注入することで、脂肪細胞の数を減少へ導く施術です。破壊されて体外に排出された脂肪細胞は元に戻ることがないことから、脂肪細胞の大きさを小さくする痩身方法よりもリバウンドしにくい施術といわれています。
脂肪溶解注射の薬剤はさまざまなメーカーから多様な種類が開発されていて、それぞれ脂肪細胞を減少に導く作用や、施術後のダウンタイムの期間などが異なり、顔への注入がメインの薬剤もあります。
顔へ注入ができる主な脂肪溶解注射の薬剤
主な脂肪溶解注射の薬剤名一覧
薬剤名 |
主な成分 |
アルフォコリン |
植物由来成分 |
カベリン |
デオキシコール酸 |
ミケランジェロ |
フォスファチジルコリン・デオキシコール酸 |
輪郭注射 |
植物由来成分 |
BNLSneo |
植物由来成分・デオキシコール酸 |
MITI |
フォスファチジルコリン・デオキシコール酸 |
次のように、脂肪溶解注射の主な成分は3つに分けられます。
日本ではつかわれていない「カイベラ」という脂肪溶解注射の主成分で、脂肪細胞の細胞膜を破壊して脂肪細胞を減少させる効果がアメリカのFDA(米国食品医薬品局)に認可されている成分です。細胞膜を破壊するときに、注入部位に炎症を生じさせるデメリットがあります。
デオキシコール酸のようにFDAなどの公的な機関から有効性が認可されている成分ではありませんが、数々の臨床データにおいて皮下脂肪の減少作用が認められています。脂肪細胞を減少に導く具体的なメカニズムは解明されていませんが、デオキシコール酸と同様に注入部位に炎症を引き起こすデメリットがある成分です。
デオキシコール酸やフォスファチジルコリンよりも後に登場した薬剤の成分で、クルミや海藻などの植物から抽出したエキスが、皮下脂肪の減少に効果が期待できるとされています。植物由来の成分に関しても公的な機関からの認可はありませんが、臨床データから皮下脂肪の減少が確認されていて、デオキシコール酸やフォスファチジルコリンを主成分とした薬剤と比べて注入後の炎症が生じにくい傾向です。
アルフォコリン
大豆から抽出した成分を主成分として、安全性がKFDA(韓国食品医薬品安全省)に認められている薬剤です。脂肪細胞に作用が期待できるとされる有効成分は、ヒトの母乳などにも含まれている成分のグリセロホスホコリン(GPC)です。アルフォコリンで使用されているグリセロホスホコリンは大豆の脂質のひとつであるレシチンから生成されています。
デオキシコール酸やフォスファチジルコリンを主成分とした薬剤ではないため、注入後に腫れや痛みが生じにくいとされます。
カベリン
脂肪細胞に直接作用するデオキシコール酸が有効成分ですが、リンパの流れや血流を向上させる作用があるアーティチョークエキスが配合されたことによって、従来のデオキシコール酸を含む脂肪溶解注射よりも腫れが少なくなるように開発された薬剤です。
また、アーティチョークエキスは代謝を促進させる働きもあることから、デオキシコール酸が破壊した脂肪細胞を排出しやすくする作用も期待できます。デオキシコール酸とアーティチョークエキスのほかに、主に肉類に含まれるアミノ酸の一種であるL-カルニチンも配合していて、L-カルニチンは運動などをした際における脂肪のエネルギー変換する促す働きがあるとされる成分です。
ミケランジェロ
デオキシコール酸・フォスファチジルコリンが有効成分の薬剤です。さらに、アミノ酸の一種であるL-カルニチン、血管拡張や利尿の作用があるカフェイン、抗酸化の作用があるαリポ酸などが配合されています。
L-カルニチンは破壊された脂肪細胞から放出された中性脂肪のエネルギー消費を促す働きがあって、利尿作用のあるカフェインは破壊された脂肪細胞が代謝で尿として排出される働きの一助となる成分です。αリポ酸には抗酸化の作用に加えて代謝を高める作用があることから、破壊された脂肪の排出を促す働きが期待できます。
輪郭注射
植物由来(メディカルハーブ)のエキスであるサポニン・αリノレン酸・ヒバマタ成分・チロシンが有効成分の薬剤です。注入部位の脂肪減少を目指すだけではなく、Firming(引き締め)が期待できる成分も配合しています。
輪郭注射のようにメディカルハーブを主成分とした薬剤はデオキシコール酸やフォスファチジルコリンを主成分とした薬剤と比べて脂肪を減少へ導く効果がマイルドとされています。一方で、注入後の痛みや腫れが生じにくいことから、顔への脂肪溶解注射で使用される傾向にあるという特徴があります。
BNLS neo
初代BNLS、BNLS Version2の次に開発されたシリーズの3代目にあたるBNLS neoは、従来のメディカルハーブを主成分としたBNLSに、デオキシコール酸が配合されたものです。FDAから脂肪減少の効果が認められているデオキシコール酸が加えられたことにより、脂肪減少の効果がより高まったとされる薬剤です。
現在日本でおこなわれている脂肪溶解注射のなかでは注入後の痛みや腫れが生じにくい薬剤とされていて、多くの医療機関が顔への脂肪溶解注射として使用しています。
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MITI
フォスファチジルコリンが有効成分の薬剤です。脂肪細胞に作用する成分のフォスファチジルコリンのほかに、代謝や筋肉を活性化させるIGF-1(インスリン様成長因子)が入っており、注入した部位に存在する脂肪細胞の減少が期待できると同時に、肌のハリも期待できる薬剤です。
植物由来のエキスを主成分とした薬剤と比べると、フォスファチジルコリンの作用によって注入後に腫れや痛みが生じやすいという特徴があります。
脂肪溶解注射ができる顔の部位と注入量
フェイスライン・頬への脂肪溶解注射で目指せる小顔
フェイスラインや頬にある皮下脂肪が原因で顔が大きく見えてしまう場合、フェイスラインまたは頬、あるいはその両方に脂肪溶解注射をおこなうことで、脂肪細胞の減少による小顔効果が期待できます。
1回あたりの施術における注入量は、両側のフェイスラインが2cc~4cc、両頬が2cc~8ccほどが目安です。フェイスライン・頬への脂肪溶解注射をおこなう場合、薬剤の注入量が多すぎると、脂肪細胞の過度な減少によって頬がこけて実年齢よりも老けて見えてしまうリスクがあります。そのため、ドクターと相談しながら注入量を決めることが大切です。
鼻への脂肪溶解注射で目指せる団子鼻の改善
鼻先が丸くなっていたり、小鼻が横に広がっている団子鼻の原因が皮下脂肪である場合、脂肪溶解注射によって脂肪脂肪を減少させることで、鼻筋が通る・小鼻が縮小する効果が期待できます。
注入量の目安は1回あたりの施術につき、鼻先が1cc~2cc、小鼻部分が0.5cc~1.5ccです。団子鼻の改善が期待できるほかの施術としては、シリコン製の人工軟骨を鼻の皮下へ挿入して鼻筋を通すプロテーゼ挿入や、鼻の皮膚を切開した後に軟骨を糸で縫い合わせて中央に寄せることで理想とする鼻尖の形を目指す鼻尖形成などがあります。
顎下への脂肪溶解注射で目指せる二重あごの改善
顎下に脂肪溶解注射をおこなうことで、顎下についた皮下脂肪を減少に導いて二重あごの改善が目指せます。1回あたりの施術における注入量は3cc~5ccが目安になりますが、二重あごの原因が皮下脂肪ではなく皮膚のたるみである場合は皮膚の中に特殊な糸を挿入して物理的にたるみを引き上げるスレッドリフトなどほかの施術が適応となります。
顔に脂肪溶解注射をおこなう際の注意点
顔に脂肪溶解注射をおこなうリスク
脂肪溶解注射は外科的な治療などと比べてダウンタイムが短く、比較的に気軽に受けられる美容医療ですが、より安心して施術を受けるためには事前にリスクについて知っておくことが大切です。顔に脂肪溶解注射をおこなうことで生じるリスクは次の2つがあります。
内出血が生じる可能性がある
脂肪溶解注射は皮下に薬剤を注入する施術であるため、注入の際に毛細血管が傷つくと内出血が生じる可能性があります。内出血が生じてもほとんどの場合は1週間~2週間ほどで収まるといわれていますが、念のために施術を受けた1週間~2週間ほどは大事な予定を入れないようにスケジュールを調整しておくと安心です。
注入部位の皮膚がたるみやすくなる
肥大化した脂肪細胞により張っていた皮膚は、脂肪溶解注射によって脂肪細胞が減少して張りが解消されることによって、たるみやすくなります。たるみを防止する成分を含有した薬剤もありますが、脂肪溶解注射をおこなったことがない人に比べると、たるみやすくなるといわれています。
脂肪細胞の減少で皮膚がたるんだ場合、糸を顔に挿入して物理的に皮膚を引き上げるスレッド(糸)リフトという施術でたるみの改善が期待できます。また、高周波・超音波を皮膚の土台である真皮層や脂肪の層である皮下組織に照射して、熱で収縮させることよって皮膚のコラーゲン線維などのタンパク質を引き締めるサーマクールやウルセラといった施術もたるみの改善が期待できます。
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顔に脂肪溶解注射をおこなう際の痛みとダウンタイム
脂肪溶解注射の痛み
注射の施術であるため、注入針を皮下へ挿入する際に痛みが生じますが、麻酔をすることも可能ですので、痛みが不安な方はドクターに相談してください。また、カニューレという先端の丸い注射針を使用することで痛みを抑えることも可能です。
麻酔やカニューレの使用はオプションメニューとしている医療機関もあるので、料金については各医療機関に問い合わせてください。
脂肪溶解注射のダウンタイム
脂肪溶解注射は、薬剤の種類によって注入部位に生じる腫れや内出血が落ち着くまでのダウンタイムが異なります。ほとんどダウンタイムがない薬剤もあれば、1週間~2週間ほどのダウンタイムをともなう薬剤もあります。
脂肪溶解注射は日本で未承認の薬剤
現在、日本で使用されている脂肪溶解注射の薬剤は、厚生労働省から認可を受けているものがありません。脂肪溶解注射をおこなう場合は、医療機関でリスクや注意点、期待できる効果などの説明をしっかりと受けて、納得したうえで施術を受けることが大切です。
脂肪溶解注射が受けられない方
- 甲状腺疾患の方
- 薬剤の含有成分に対してアレルギーがある方
- 妊娠中、授乳中の方
- 抗がん剤治療をおこなっている方
- 施術部位やその周囲に未治癒の外傷や炎症がある方
- 免疫不全の疾病がある方、自己免疫疾患の方
- 細小血管障害、血管不全の疾病がある方
- 施術を受ける当日に飲酒をしてきた方
- そのほか施術を受ける医療機関で不適応と判断された方
脂肪溶解注射以外で脂肪の減少により顔痩せが期待できる施術
脂肪吸引
脂肪を減らしたい部分に管を差し込んで脂肪を吸引することで、物理的に脂肪を体外に取り出す外科手術が脂肪吸引です。
手術後の痛みは、口を開けたり洗顔をするなど顔を動かすときに感じる程度で、痛み止めを飲むほどではないといわれています。また内出血を伴う手術になりますが、1週間~2週間ほどで落ち着くことが多く、1カ月ほどは手術後の腫れが続く傾向にあります。
バッカルファット除去術
バッカルファットとは、皮下脂肪とは異なる頬の咬筋の下にある脂肪組織のことです。バッカルファットが多いと頬が膨らんで見えたり、顔全体が膨らんで見える場合があります。
バッカルファット除去術では、頬の内側を5mm~1cmほど切開して、切開したところからバッカルファットを摘まみだすように取り除くので、手術後の傷は外見上わかりません。頬や顔全体が膨らんで見えるバッカルファットを取り除くことで顔痩せが期待できます。
ウルトラアクセント
ウルトラアクセントは、脂肪細胞の破壊が期待できる超音波のマシンです。脂肪細胞にだけ反応する超音波を照射することで血管やリンパ管を傷つけずに脂肪細胞のみを破壊する効果が期待できます。破壊された脂肪細胞が血流やリンパ管によって運ばれて、尿や便として体外に排出されることで、顔痩せを目指すことが可能です。
脂肪溶解注射の効果をより高める方法・施術
脂肪溶解注射の施術でも皮下脂肪の減少は期待できますが、施術後におこなうことで、皮下脂肪の減少がさらに期待できる方法や美容医療の施術があります。
施術後におこなうと脂肪溶解注射の効果をより高められる方法
マッサージ
施術後、やさしくマッサージをすることで、注射した薬剤が広範囲に広がり、より効果が高くなるといわれています。ただし、痛みがある場合や施術直後は炎症を引き起こす可能性があるので、痛みや腫れなどの症状が落ち着くまではマッサージを控えてください。
有酸素運動
有酸素運動をすることで、体の代謝をアップさせることができます。脂肪溶解注射によって破壊された脂肪細胞は体の代謝によって体外に排出されるので、代謝を高めることにより脂肪細胞が体外に排出される働きが促されて効果をより実感しやすくなります。
脂肪溶解注射と併用すると相乗効果が期待できる施術
リンパ管の流れをスムーズにするリンパドレナージュ
脂肪溶解注射をおこなうと脂肪細胞が破壊されますが、破壊された脂肪細胞は血液やリンパの流れによって運ばれて尿や便として体外に排出されます。リンパドレナージュというマッサージによってリンパの流れが改善されることで、破壊された脂肪細胞の排出をスムーズにする効果が期待できます。
エラの原因である咬筋を弱めるボツリヌス注射
エラが張って見えてしまう原因が皮下脂肪ではなく、咬筋とよばれる顔の筋肉の過度な発達であった場合、脂肪溶解注射では改善が期待できません。咬筋の発達が原因のエラは、注入した部位の筋肉の緊張をやわらげる作用のあるボツリヌス注射をおこなうことで、咬筋が弛緩されて改善が期待できます。
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顔への脂肪溶解注射で失敗しないための医療機関の選び方
顔に脂肪溶解注射をおこなう場合、顔の脂肪のつき方によって薬剤を注入する部位と量が重要になります。薬剤を注入する場所と量が不適当であった場合、効果が感じられなかったり、左右で脂肪が減少する量に差が生じるなどのリスクがあります。
顔の脂肪のつき方に詳しいドクターは脂肪吸引の手術もおこなっていることが多い傾向にあるため、脂肪吸引の施術件数が豊富なドクターが在籍する医療機関で脂肪溶解注射の施術を受けることで、失敗のリスクを抑えつつ顔痩せを目指すことが可能です。
また、顔へ脂肪溶解注射をおこなう場合は、希釈をしていない原液の薬剤を使用します。万が一、顔への脂肪溶解注射にもかかわらず原液を希釈した薬剤を使用した場合、ほとんど効果を感じられない可能性があるため、事前に原液の薬剤を使用する医療機関であるかホームページや電話にて確認してください。