薄毛の対処法や治療法には、残っている毛髪に人工毛髪をとりつけて毛の量を増やす増毛や、抜け毛を予防する内服薬であるフィナステリドの服用、育毛を促進するミノキシジルの塗布など、さまざまな方法があります。
増毛は自毛が伸びることにより編み込んだ人工毛髪が一緒に浮いてくるので、月に1、2度のメンテナンスをおこなう必要があり、残った自毛一本一本に負担がかかって抜けやすくなるリスクも考慮しなければなりません。
男性型脱毛症(AGA)の治療でつかわれる、抜け毛を予防する内服薬であるフィナステリドや、血行を促進して抜け毛を予防し毛髪の成長を促進するミノキシジル外用薬は薄毛治療に有効ですが、いずれも毛髪があってこその効果であり、守りの治療といえます。
ハーグ療法は、再生医療に基づいて開発された毛髪再生治療で、ほかの育毛治療や脱毛を予防する治療とは根本的な作用や効果が異なり、失われた毛髪を再生へ導く治療方法です。
女性の薄毛に関しては、妊娠中や妊娠の可能性がある方、授乳中の方に対してフィナステリドを用いた薄毛治療は禁忌であるため、女性の薄毛に対する治療の選択肢は限られたものでしたが、ハーグ療法は女性の薄毛の治療としても効果が期待できます。
ハーグ療法の発毛のメカニズムやほかの薄毛治療との違いを理解したうえで、効果的な治療回数や、併用することで効果が高まる治療方法を知っておくことは、満足のいく薄毛改善の効果を得ることにつながります。
もくじ
ハーグ(HARG)療法は「Hair Re-generative theraphy(毛髪再生治療)」の頭文字からとられ、医療機関でのみ施術が認められている発毛・育毛療法で、ハーグカクテルという薬剤を薄毛部分の頭皮に注射し、活性を失った毛乳頭細胞や毛母細胞、周囲の毛包幹細胞に働きかけて発毛を促す再生医療です。
ハーグ療法で使用する薬剤はすでにヨーロッパ・アメリカ・韓国・日本などで多数の実績があり、発毛・育毛効果や安全性が確立されていて、男性の薄毛のみならず、女性の薄毛の悩みに対しても有効な治療方法です。
薄毛の原因は男性ホルモンの影響や、遺伝的要因、ストレスによる血行不良や生活習慣の乱れなどさまざまですが、いずれの原因でも、毛髪を作り出す細胞の機能が低下し、ヘアサイクル(毛周期)が乱れることで薄毛の症状が起こります。
体毛にはそれぞれ成長する期間や寿命があって、毛髪の場合では、一般的に2年~6年程度が正常な寿命とされており、成長期・退行期・休止期のヘアサイクルを繰り返します。
毛は毛母細胞が増殖、分化、角化することにより形成されるもので、頭部の毛髪の85~90%を占め2年から6年間持続する成長期(catagen)、2カ月から4カ月間続く休止期(telogen)からなる毛周期によって、生涯にわたり成長と退縮を繰り返す
引用元:男性型脱毛症治療薬の研究動向
毛髪は通常、成長期・退行期・休止期を経て、再び成長期へと移行する周期を繰り返しますが、薄毛の症状はヘアサイクルの周期が乱れて、成長期が短くなったり、休止期が長引いたり、半永久的な休止状態となることで現れます。
ハーグ療法は薄毛の原因となるヘアサイクルの乱れを正常なサイクルに戻すことによって、毛髪を再生へ導きます。
髪が薄くなってしまった部位でも、実はヘアサイクルの乱れによって細胞が長い休止期に陥っているだけで、細胞自体は生きている場合があります。ハーグカクテルを頭皮に注射することで半永久的な休止期に陥っている細胞を活性化させて、元のヘアサイクルに戻すことができれば、毛髪の再生が期待できます。
ただし、完全に毛髪が失われ頭皮が固くなっている場合は、ハーグカクテルを注射しても細胞が再生しないケースが多いので、産毛であっても毛髪が存在している部位が治療の対象となります。薄毛の症状は時間が経つほど症状が進行するため、早期に根本的な治療や効果的な対策をおこなうことが重要です。
ハーグ療法には毛髪が生えるのを促す発毛作用と、生えた毛髪を太く丈夫に育てる育毛作用、2つの作用があります。
ハーグ療法は、脂肪幹細胞から抽出した150種類以上の成長因子を含むタンパク質(サイトカイン)を冷凍乾燥させたパウダーを溶解させ、その薬剤を頭皮に注射することで、活性を失った毛乳頭細胞や毛母細胞、周囲の毛包幹細胞を刺激して発毛を促します。
2018年には薬剤がリニューアルされ、発毛の活性に重要な役割を果たす情報伝達物質エクソソームとタンパク質が従来品より多く含有されたことで、より毛髪に特化したものとなりました。
幹細胞とは、さまざまな細胞に変化(分化)することで組織や器官を作り、成長させることのできる細胞で、その性質から、身体の失われた器官や機能の回復を目的とする再生医療において中心的な役割を担う存在として非常に注目を集めています。
ハーグ療法はタンパク質を冷凍乾燥させたパウダーに豊富に含まれるサイトカインやエクソソームのシグナルが毛髪に係る細胞へ伝達されることで、休止期の細胞が再び成長期へと移行し、成長期にある細胞の活動をさらに活発化させます。
頭皮に注射する薬剤は、パウダーに含まれる成長因子の働きのみならず、毛穴の奥にある毛包幹細胞に働きかけることで、毛包幹細胞が自ら成長因子を分泌し、毛母細胞に刺激を与え続けるのです。パウダーに含まれる成長因子による作用と、注射部位の毛包幹細胞を刺激することで生まれる成長因子の2段階の作用により、長く育毛作用が持続します。
フィナステリド内服薬やミノキシジル外用薬を使用した薄毛治療は、治療を中止すれば効果がなくなり元の状態に戻ってしまうのに対して、ハーグ療法は生えた毛を丈夫な太い毛髪に育てる育毛作用も持ち合わせているため、治療を中止しても改善した状態を持続することが期待できます。
ハーグ療法のふたつめの作用は、生えた毛を丈夫な太い毛髪に育てる育毛作用です。 育毛を目的としたハーグ療法では、脂肪幹細胞から抽出した150種類以上の成長因子を含むタンパク質を頭皮に注射します。
タンパク質のパウダーに含まれている成長因子のひとつであるPDGFには、毛髪の成長期を保持する働きがあり、短くなってしまった成長期を回復させることで、毛髪が充分に成長する期間が確保されます。
ハーグ療法の発毛・育毛効果を出すためにはヘアサイクル(毛周期)の乱れを正常に戻すために、1カ月おきに6回ほどの治療を継続することが望ましいといわれています。
一般的には6回~9回程度を1クールの治療として、また薄毛が気になった場合には数ヶ月~半年に1回程度の頻度でハーグカクテルを再び注射します。
ハーグ療法の施術時間は、施術部位の範囲によって差がありますが、注射自体は20分~30分程度、施術前の消毒や麻酔、施術後の待機時間などを含めると全体で40分~1時間程度です。
パピュール法は注射器でハーグカクテルを頭皮に細かく少量ずつ注射する方法で、ハーグ療法では最もポピュラーな注射方法といえます。ヒトの皮膚は外側から表皮層・真皮層・皮下組織の3層構造ですが、表皮と真皮の間にハーグカクテルを注射して、有効成分を浸透しやすくする方法です。
注射針を使用するため、多少の痛みを感じることがありますが、冷却麻酔やスプレー麻酔、局所麻酔を使用することで痛みを最小限に抑えることができます。
メドジェットは、炭酸ガスの噴射による圧力で先端の0.03mmの穴からハーグカクテルを皮膚の中に散布する注入器です。注射針を用いた注射方法と比べて痛みが大幅に軽減されるといわれていて、麻酔が不要となります。注射が苦手な方、痛みが苦手な方に向いている方法です。
ハーグ療法は、薄毛に対して「発毛」させ、発毛した毛髪を「太く長く育毛」させる作用がありますが、脱毛を防ぐことはできないので、せっかく生えてきた髪が抜けないための治療も同時におこなうことが推奨されています。
男性型脱毛症(AGA)は、男性に多い脱毛症状で、思春期以降に始まり、徐々に進行します。額の生え際から後退するタイプや、頭頂部の毛が薄くなっていくタイプ、両方同時に進行するタイプがあります。一般的に遺伝や男性ホルモンの影響などが主な原因で脱毛がおこります。
男性型脱毛症(AGA)は、男性ホルモンの一種である「テストステロン」が、体内の還元酵素「5αリダクターゼ(5α還元酵素)」によって悪玉男性ホルモンの「DHT(ジヒドロテストステロン)」に変化し、男性ホルモン受容体の「アンドロゲンレセプター」と結合することによって発症するものです。
アンドロゲンレセプターと結合したDHT(ジヒドロテストステロン)は、髭などの体毛に対しては成長因子を刺激して毛を太く成長させる作用を持ちますが、前頭部や頭頂部などの毛髪に対しては、毛母細胞の分裂を抑制しヘアサイクルにおける成長期を短縮させてしまう働きがあります。
通常のヘアサイクルは約1,000日~2,000日かけて1周しますが、AGAの発症によってヘアサイクルが乱れるとヘアサイクルの成長期が100日程度へと極端に短縮されてしまいます。
男性型脱毛症(AGA)の治療は、ハーグ療法のように毛母細胞に働きかけて発毛を活性化させる「攻めの治療」と同時に、男性ホルモンの攻撃から毛母細胞を守る「守りの治療」を併用することで相乗効果が高まるといえます。
フィナステリドは、前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞に多く存在するII型5αリダクターゼの働きを阻害して、AGAの原因であるDHT(ジヒドロテストステロン)の産生を抑制するため、服用することで男性型脱毛症(AGA)の進行を食い止めることができます。
また、フィナステリドは厚生労働省から男性のみに適応となる成分で、女性と小児は使用してはいけないと注意喚起がされています。
参考文献:プロペシア(PROPECIA)(男性型脱毛症用薬)に関する注意喚起について:厚生労働省
デュタステリドは、フィナステリド同様、厚生労働省に承認された男性型脱毛症(AGA)治療薬であり、フィナステリドがII型5αリダクターゼのみに働きかけるのに対して、デュタステリドは皮脂腺に多く存在するI型5αリダクターゼと、II型5αリダクターゼの両方の働きを阻害します。また、II型5αリダクターゼの働きを阻害する力は、フィナステリドより強力であるとされています。
ミノキシジルは、もともと血管拡張作用を有する薬で、高血圧症治療の内服薬の成分として使用されていましたが、治療中の患者に多毛が認められたことから、後に外用の発毛剤の成分として開発が進められ、ミノキシジル配合の育毛剤が医薬品として承認されました。血行を促進して脱毛を予防し、生えてきた毛髪を太く長く育毛促進する作用が期待できます。
男性の薄毛の多くは男性型脱毛症(AGA)ですが、女性の薄毛は男性の薄毛とは原因や症状が異なります。女性の薄毛は頭部全体が薄くなる、びまん性(広範囲に症状があらわれる)脱毛が特徴であり、男性のAGAのように生え際や頭頂部といった部分的な脱毛ではありません。そのため、診断がむずかしいといわれています。
女性における薄毛の多くは、頭部中央を中心に毛髪密度が減少し、組織学的には一部の毛包の縮小とともに薄毛部における休止期毛の割合が増加することが知られ、男性の薄毛で広く認められる男性型脱毛(androgenetic alopecia:AGA)と区別してfemale pattern hair loss(FPHL)とよばれている。AGAでは典型的には進行に伴って前頭部から頭頂部にかけて徐々にヘアラインが後退していくのに対し、FPHLでは前頭部のヘアラインは維持されつつ、頭部中央の毛髪密度がびまん性に低下し、薄毛部位が頭部全体に広がることはまれである。
ホルモンバランスの乱れやストレスなど、原因もさまざまであることから、総称して女性型脱毛症と呼ばれています。
男性型脱毛症(AGA)治療に効果的なフィナステリドの内服は、妊娠中の女性が摂取した場合、胎児が男の子のケースでは、生殖器に異常を起こす恐れがあるといわれているため、女性への投与は原則おこなわれていません。
頭皮に栄養を行き渡らせて頭皮環境を整え薄毛を改善する効果が期待できるサプリメントの内服や、血行を促進して脱毛を予防し、ハーグ療法によって生えてきた毛髪の成長を促進するミノキシジル外用薬の併用が推奨されています。
ハーグ療法では一般的に注射針を使用して皮内注射をおこなうことが多いので、薬剤の注射部位に少し血がにじんだり、赤み、腫れなどが生じることがありますが、数時間~数日でおさまります。
注射針を使用して施術をおこなう場合、稀に内出血が起こる場合がありますが、1週間~10日程度で落ち着きます。
ハーグ療法は厚生労働省から認可されていない未承認品を用いた治療方法です。 |
入手経路:入手経路は各医療機関のドクターによる個人輸入です。 個人輸入において注意すべき医薬品等について(厚生労働省のページ) |
日本国内での承認の有無:薄毛治療を目的として同一の成分・作用があり、日本国内で承認を受けている製品はありません。 |
諸外国における安全性等に関する情報:諸外国において、ハーグ療法による重篤な副作用や合併症の報告はありません。 |
頭皮にかゆみや湿疹、腫れがあったり、過敏症の場合や、別の治療・施術の直後であった場合、ハーグ療法が受けられないことがあります。ハーグ療法が受けられるかどうかはドクターが頭皮の状態を診察したうえで決まります。
ハーグ療法は毛髪に係る細胞を活性化させて発毛を促す治療法なので、細胞がない頭皮に対しては効果がありません。ドクターが頭皮の状態を診察して効果が望めないと診断した場合は治療ができないことがあります。
(1)カウンセリング・診察
まずドクターが診察をおこない、ハーグ療法を受けられる頭皮の状態であるか診断します。
(2)消毒・麻酔
頭皮の状態を記録して、注射部位の消毒をおこなった後に、麻酔を使用して施術時の痛みを和らげます。
3)施術
注射針を用いるパピュール法か、針をつかわないメドジェットによって、ハーグカクテルを頭皮に注射します。
4)注意事項の説明・処方
治療後の注意事項について説明を受けて、併用する薬がある場合は薬を処方してもらい、施術終了です。
回数 | 料金 |
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1回 | 80,000円~ |
ハーグ療法で頭皮に注射する薬剤は厚生労働省から認可されていない未承認の薬剤で、保険が適用されない自由診療にあたり、治療にかかる費用は全額自己負担となります。
ハーグ療法の薄毛改善の効果を高めるために、治療後のアフターケアとして男性の場合はフィナステリド内服薬やミノキシジル外用薬、女性の場合は頭皮環境を整えて薄毛を改善する効果が期待できるサプリメントやミノキシジル外用薬などの併用を推奨するドクターも少なくありません。ハーグ療法と併用する薬剤の処方は、別途料金がかかる場合もあるので、各医療機関にお問い合わせください。
ハーグ療法は、これまでフィナステリドの内服やミノキシジル外用薬の塗布などの治療であまり薄毛の改善がみられなかった方にも効果が期待できるといわれています。ただし、薄毛の原因は男女でも異なり、進行の程度は人それぞれなので、薄毛治療の実績がある医療機関に相談してしっかりカウンセリングを受けることが大切です。
ハーグ療法とともに男性はフィナステリド、女性は頭皮環境を整える作用のあるサプリメントの内服や、ミノキシジル外用薬などの薄毛治療を併用することで相乗効果が期待できます。薄毛治療の実績があり治療件数が豊富なドクターであれば、一人ひとり異なる薄毛の原因や進行の程度にあった治療を提案してくれます。
(2021年1月更新)