記事監修
弁護士法人 丸の内ソレイユ法律事務所
美容・健康にかかわるビジネスに精通し、弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務にて「ヘルス&ビューティーチーム」のチームリーダーとして活躍。広告規制や景表法・薬機法・特商法についてセミナーや講演多数。
日本では、医薬品や医療機器を製造販売する場合には、厚生労働省による効果と安全性の承認が必要ですが、承認されていない未承認の医薬品や医療機器による施術も多くおこなわれています。
未承認の医薬品・医療機器を販売するために、その名称や効果効能を広告することは薬機法で禁止されています。その趣旨を尊重し、「医療広告ガイドライン」においても、未承認の医薬品・医療機器を広告は原則として禁止されていますが、一定の条件を満たしたウェブサイトなどでは広告が可能になります。どのような場合に違反とならないのか確認していきます。
日本には、医薬品や医療機器のほか医薬部外品・化粧品における品質と有効性や安全性を確保するための法律である通称「薬機法」があります。
薬機法は正式名称を「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」といい、医薬品や医療機器を輸入あるいは製造販売をおこなう場合、厚生労働省による承認が必要であると定めています。
厚生労働省による承認の目的は、人命や健康にかかわる医薬品や医療機器において害のあるものや不良品が出回ることを防ぐことです。そのため、承認された医薬品や医療機器は、効能・効果と安全性において厚生労働省に認められているということになります。
しかしながら、日本国内の医療機関でつかわれているすべての医薬品や医療機器が、厚生労働省の承認を得ているわけではありません。承認を得ていない医薬品・医療機器による施術もあり、とくに日本の美容医療における医薬品・医療機器の多くは未承認で、承認された医薬品や医療機器による施術の方が少数です。
厚生労働省による承認を得ていない医薬品や医療機器は、「未承認医薬品」「未承認(医療)機器」といわれます。
日本では、医師が治療に用いるために海外の医薬品・医療機器を輸入することが可能で、未承認機器(医薬品含む)をつかった施術が認められています。
未承認の医薬品・医薬機器は日本国内での販売が認められていないため、医療機関において未承認機器(医薬品含む)を用いた施術がおこなわれている場合は、医療機関のドクターが個人輸入していることになります。入手するには、ドクター自身が海外から輸入するもしくは輸入代行業者に依頼して輸入します。
この場合、厚生労働省による医薬品等の承認・許可等の手続きをしていないことになりますが、通関時に「薬監証明」を提出することで輸入してつかうことが可能です。薬監証明は、管轄の厚生局(厚生労働省の地方支分部局)に必要とされる書類を提出し要件を満たすことで、不備がなければその場で交付されます。
なお、輸入した医薬品・医療機器を使用できるのは、輸入者であるドクターのみです。複数のドクターが在籍する医療機関であれば、各ドクターが輸入手続きをおこなうことで、それぞれのドクターが医薬品・医療機器を使用することができます。
未承認機器(医薬品含む)の輸入は、以下のいずれかの目的に該当する場合に限り許可されます。
ア)個人使用のために輸入
イ)医師等が治療に用いるために輸入
ウ)企業主体の臨床試験用に輸入
エ)医師又は歯科医師主体の臨床試験用に輸入
オ)試験研究・社内見本用に輸入
カ)社員訓練用に輸入
キ)展示会用に輸入
ク)輸出したものを輸入(再輸入)
ケ)毒物・劇物又は医薬品の原料として輸入 (自家消費)
コ)自宅以外の勤務先宛又は郵便局留めにした輸入
サ)その他の輸入
日本の美容医療において、未承認の医薬品・医療機器による施術が多くおこなわれている背景には、承認にはお金と時間がかかるという問題があります。
実際に承認審査業務を請け負うのは、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA;Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)で、PMDAによる審査業務が終わると厚生労働省に審査結果が通知されます。通知を受けた厚生労働省は、薬事・食品衛生審議会(薬事分科会)と審議し、申請者に承認あるいは不承認を報告します。
参考サイト:
PMDA「承認審査業務(申請・審査等)」
PMDA「承認審査等の現状」
PMDAは独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA;Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)で、医薬品の副作用や生物由来製品を介した感染等による健康被害に対して、迅速な救済を図り(健康被害救済)、医薬品や医療機器などの品質、有効性および安全性について、治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査し(承認審査)、市販後における安全性に関する情報の収集、分析、提供を行う(安全対策)ことを通じて、国民保健の向上に貢献することを目的としています。
出典:PMDA「PMDAとは」
また、承認申請するには、承認されるための結果を得る臨床試験(治験)をおこなわなければなりません。治験には多額のお金がかかるものの、美容医療においては効果の基準が明確ではないため、承認に値する効果が得られない可能性があり承認に至る確証がありません。そのためお金と時間を費やして承認を得ようとするメーカーは限られるといえます。
一方海外では、日本のように医師による未承認機器の個人輸入が認められている国が少ないこともあるためか、日本と比較すると承認が得られやすいといわれています。米国では医療機器の市場が広いことと技術開発が進んでいることもあって承認審査の申請が多く、韓国では、承認審査の期間が法律で定められていて手数料も安いなど、各国で医療機器(医薬品含む)に対する承認事情は異なります。
そのため、日本では未承認であっても、日本の厚生労働省にあたる米国のFDA(アメリカ食品医薬品局)による承認や、欧州の安全基準条件を満たすことを証明するCEマークを取得しているなど、海外で承認を得ているケースは少なくありません。
出典:
『保健医療科学』 第66巻 第1号 (2017年2月)「韓・米・日における医療機器の承認審査の現況について」を編集
厚生労働省による承認が得られていない医薬品・医療機器による施術において、トラブルが生じた場合はドクター個人が責任をおうことになり、「海外送金をする必要があり納品まで時間がかかる」「医療機器の消耗品も未承認となるため都度輸入する必要がある」など、承認機器と比べて時間と手間がかかる傾向にあります。承認機器と比べると負担は大きくなりますが、ドクターによる未承認の医薬品や医療機器をつかった施術は法律的に認められています。
しかし、未承認の医薬品・医療機器を広告する際には注意が必要で、「薬機法第68条」において承認前の医薬品や医療機器の広告は禁止されています。FDA(アメリカ食品医薬品局) で承認されていたとしても、日本国内で承認が与えられた医薬品や医療機器を用いた治療でなければ「広告可能事項」に含まれません。
医療広告ガイドラインでは医療広告で広告できる内容が定められています。広告できる内容は「広告可能事項」といわれて、原則として「広告可能事項」以外を広告することはできません。
など
広告可能事項には治療効果は含まれていないため、承認もしくは未承認にかかわらず原則として治療効果は広告できません。ただし、医療広告ガイドラインでは、患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であれば、以下の「広告可能事項の限定解除要件」を記載することで、医療機器(医薬品)の製品名・製造方法・効能・効果又は性能に関する広告(製品の写真の掲載含む)が可能であることも定めています。
患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であれば、以下の「広告可能事項の限定解除要件」を記載することで広告可能事項の限定を解除することができます。 通常の広告可能事項の限定解除要件は1~4だけですが、未承認医薬品・医療機器を用いた治療については、これに加えて5以下を記載する必要があります。
6~8については以下のような記載が必要となります。
医療機器(または医薬品)の入手経路:医師による個人輸入
「個人輸入において注意すべき医薬品等について」(厚生労働省ホームページ)もあわせてご確認ください。
○○と同一の性能(効能)を有し日本国内で承認を受けている機器(医薬品)はありません。
○○と同一の性能(効能)を有し日本国内で承認を受けている機器(医薬品)には、○○があります。
○○はFDA(アメリカ食品医薬品局)により、ニキビ跡の改善・小ジワの改善において承認を取得しています。 当該承認における副作用は以下の通りです。
軽度の炎症・腫れ・赤み・かゆみ(副作用についてすべて記載)
海外で承認を得ていることを記載する際には、承認は効果・効能ごとに得られるものであるため、承認を得ている効果についても記載するのが親切です。
たとえばAという医療機器は「シミを薄くする」「毛穴トラブルを改善する」「脱毛効果がある」といわれているとします。しかし、脱毛効果については承認されていてもシミや毛穴トラブルの改善については承認されていないという場合があるためです。
一方、主要な欧米各国で承認されている国がないような場合には、情報が不足していることになるので、重大なリスクが明らかになっていない可能性があることを明示しなければならないとされています。
医療広告ガイドラインでは、以下の要件をいずれも満たすと広告に該当すると判断されます。
美容の医療機関(クリニック)サイトは「誘引性」と「特定性」があるため広告に該当します。
なお、院内配布のパンフレットは、受け手側がすでに受診している患者等に限定されるため「誘引性」がないことから、広告ではなく情報提供の位置づけとなり未承認機器の紹介が可能です。
限定解除要件を満たさないまま未承認機器を用いた治療について広告をした場合、広告可能ではない事項を広告したことになり医療法に違反しますので、広告掲出の中止を求める中止命令等の行政処分を受ける可能性があります。また、行政処分に従わない場合には刑事処分(罰金刑や懲役刑)を受ける可能性もあります。
未承認機器を用いた治療の広告をおこなう場合は、限定解除要件を満たしているかどうかの確認はしっかりおこなう必要があるといえます。
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