記事監修
弁護士法人 丸の内ソレイユ法律事務所
美容・健康にかかわるビジネスに精通し、弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務にて「ヘルス&ビューティーチーム」のチームリーダーとして活躍。広告規制や景表法・薬機法・特商法についてセミナーや講演多数。
主に美容医療の分野で治療の効果をアピールするために用いられるビフォーアフター写真。治療の効果を調べて医療機関の検討をおこなう読み手にとって、視覚的にわかりやすい写真は非常に有益な情報のひとつといえます。 しかし、施術や検査など医療にまつわる広告には、「医業若しくは歯科医業又は病院若しくは診療所に関する広告等に関する指針」(以下、医療広告ガイドライン)が定められており、ビフォーアフター写真も掲載するには、定められた条件を満たす必要があります。SNSでビフォーアフター写真を掲載するためにも必要な条件となりますのでご確認ください。
もくじ
医療に関する広告は人の健康や命に関わる情報であるため、不当な広告は健康や命を脅かすことになりかねません。さらに、受け手側の誤解を招くような偏った表現は、正しい医療の選択の妨げとなる可能性もあります。
たとえば、以下のように虚偽広告や比較優良広告に該当する表現は、適切な受診機会を失わせたり、不当に受診・治療を誘引したりするおそれがあることから、広告が禁止されています。
美容医療においても、患者が治療を受けた後に健康上の被害が生じた場合や希望する効果を得られなかった場合には、苦情に発展するトラブルが生じています。
そのため、医療広告ガイドラインでは、上記の虚偽広告や比較優良広告以外にも禁止される広告を複数定めており、その中のひとつに、治療の内容又は効果について患者を誤認させる恐れがあるビフォーアフターの写真等があります。写真「等」ですから、写真だけでなく、動画やイラストも含みます。
治療の効果を伝えるためには、文章で治療の内容や治療後の変化を細かく記すことももちろん大切ですが、受け手側に印象に残るのは視覚的な「画像」といえます。とくに、治療前と治療後を比較した画像であるビフォーアフター写真は治療の効果がわかるため、積極的にウェブサイトで掲載している医療機関も少なくありません。
しかし一方で、その視覚的な印象が強いゆえに、ビフォーアフター写真が不適切なものであれば、治療の結果について受け手側に誤った認識や過度な期待を与え、誤解を生じさせることで、特定の医療機関が不当に集客する行為に繋がる可能性もあります。
そのため、医療広告ガイドラインでは、治療の内容又は効果について患者を誤認させる恐れがあるビフォーアフターの写真等の広告が禁止されているのです。
なお、それ以外にも、医療広告ガイドラインで禁止されている広告はいくつかあります。以下に、医療広告ガイドラインで禁止されている広告をまとめましたのでご確認ください。
医療広告ガイドラインで禁止される広告に、治療の内容又は効果について患者を誤認させる恐れがあるビフォーアフターの写真等が含まれることを説明しましたが、そもそも医療広告ガイドラインの規制対象になる広告には何が含まれるのか確認していきます。
医療広告ガイドラインの規制対象になる広告は、次の2つの要件を満たす広告だとされています。
そのため、全ての医学的な情報が広告と見なされて、医療広告ガイドラインの規制を受けるわけではありません。大まかな理解としては、以下のように区分けできるでしょう。
規制の対象 | チラシ、パンフレット、メルマガ、ポスター、看板、新聞や雑誌上での宣伝、ランディングページ、テレビCM、ラジオCM、不特定多数を相手とした説明会やキャッチセールスなどで用いたスライド、ビデオ、講和内容など、医療機関のウェブサイト・SNS、掲載料のかかる口コミサイトなど |
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規制の対象外 | 学術論文、新聞や雑誌の記事、患者がSNSなどで自発的に発信する口コミや体験談、院内のみに掲示されたポスター、院内で配布するパンフレット、職員募集に関する求人広告など |
「誘引性」と「特定性」が認められるものであれば、医療機関が発信するウェブサイトやチラシなどだけでなく、メルマガやSNSも医療広告ガイドラインの規制対象に含まれます。基本的には、特定の医療機関の集客につながるようなものはすべて規制の対象になると考えてください。
一方で、患者がSNSなどで自発的に掲載する口コミ、院内のみに掲示されているパンフレットなどは、病気の概要、施術の内容、かかる費用などさまざまな医療情報が含まれていても、基本的には特定の医療機関への「誘引性」と「特定性」が認められないので医療広告ガイドラインの規制対象にはなりません。そのため、これらにビフォーアフター写真を掲載しても、特段の規制は受けないことになります。
通常の新聞や雑誌の記事は広告規制の対象とはなりません。病気や治療などの情報のみを記載した記事であれば、特定の医療機関への誘引性や特定性はないためです。
しかし、医療機関が掲載料などの費用を負担して新聞や雑誌などに記事を載せ、それによる集客を狙う「記事風広告」は広告規制の対象です。
パンフレットやポスターは代表的な広告媒体といえます。しかし、院内で配布あるいは掲示されるパンフレットやポスターは、受け手側がすでにその医療機関を受診しているので、受診の誘引性がないため広告規制の対象外とされます。
医療機関が発信するSNSは、医療広告ガイドラインの規制対象になります。それでは、多くの美容の医療機関がおこなっているように、SNSでビフォーアフター写真を掲載することは、医療広告ガイドラインに違反しないのでしょうか。
そもそも医療法では、広告が可能な事項が限定されており、それ以外は広告できないのが原則です。
など
「広告可能事項」には治療の効果が含まれていません。そのため、治療の効果を示すことになるビフォーアフター写真は、広告できないのが原則になります。
広告可能事項が限定されているのは、医療分野では不当な広告により不適切な医療を受けた場合の被害が大きいことや、医療は専門性が高いので患者側で情報を取捨選択するのが難しいことが理由です。しかし、広告可能事項だけでは、受け手側が本当に必要な情報が入手しづらくなり、かえって適切な利用を選択できなくなってしまう可能性も否定できません。
そうした背景から、一定の条件を満たせば、広告可能事項以外の内容も広告することが認められています。この一定の条件を「広告可能事項の限定解除要件」といいます。
ビフォーアフター写真も広告可能事項の限定解除要件を満たせば、広告できるようになります。
広告可能事項の限定解除には、2つの条件を満たす必要があります。
広告の受け手側が自らの意思で検索して情報を閲覧するウェブサイトやメルマガ、SNS、広告の受け手側の希望で送付されたパンフレットなどが該当します。
しかし、例えば検索エンジンで検索した際に表示されるリスティング広告は、広告の受け手側の意思とは関係なく届けられるもので、患者などが自ら求める情報ではないため、広告可能事項の限定は解除されません。
上記の患者が自ら求めて情報を入手するものに当てはまる広告であれば、次の情報を明記することで、広告可能事項の限定がなくなりビフォーアフター写真も広告可能となります。つまり、SNSで治療内容を紹介する際は、以下の情報を明記することでビフォーアフター写真を掲載できるようになります。
なお、未承認医薬品・医療機器を用いた治療については、以下も記載する必要があります。
これらの情報はわかりやすく記載する必要があり、小さい文字で記載されていたり、リンク先の別ページに記載されていたりするのは不適切だとされています。
掲載したビフォーアフター写真の施術内容について、読み手が容易に問い合わせできるように、医療機関の電話番号やEメールアドレスといった連絡先を記載します。
美容医療においておこなわれる施術の多くが自由診療にあたり、施術内容や費用は医療機関によって大きく異なります。そのため、広告の受け手側の誤った解釈によるトラブルを防ぐために、施術内容や費用についての情報をわかりやすく記します。
具体的には以下のような内容になります。
たとえば費用について、最低金額だけの記載は広告の受け手側に誤認させる可能性があるため、不適当です。また、利点や長所のみが強調された内容は読み手を不当に誘引する可能性があることから、リスク・副作用についても明記します。
広告可能事項の限定解除要件を満たすことで、ビフォーアフター写真も掲載できるようになります。それでは、広告禁止事項である「治療等の内容又は効果について、患者を誤認させるおそれがある」ビフォーアフターに該当しないようにするためには、何に気を付ければよいのでしょうか。
この点、医療広告ガイドラインでは、ビフォーアフターに通常必要とされる治療内容、費用、主なリスク、副作用について、詳細な説明をすれば、患者を誤認させるものにはならないとしています。ここで挙げられている事項は、上記の広告可能事項の限定解除要件と同じです。しかし、「詳細に」とされている以上は、広告可能事項の限定解除要件で求められている以上の具体的な記載が要求されていると考えるべきでしょう。特に、リスクや副作用に関する記載は簡単なものになりがちなので注意が必要です。治療内容の紹介としてではなく、ビフォーアフター写真のみをSNSに掲載する場合でも、治療効果・費用・リスク副作用の記載は必須となります。
また、上記の条件を満たしていても、ビフォーアフター写真は虚偽広告や誇大広告になりやすいものです。ビフォーアフター写真が虚偽広告や誇大広告にならないために注意すべき内容についてみていきます。
審美性の高い美容皮膚科・美容外科の広告は、とくに施術前後の画像が集客力を左右するといっても過言ではありません。ビフォー写真とアフター写真を比較して変化が際立っているほど、効果の高い施術である印象を与えるため、当然、掲載する際は変化がわかりやすい写真を撮ることに尽力します。
ただし、写真そのものを加工したり、ビフォー写真とアフター写真で撮影条件を変えたりすることは、純粋な施術による変化ではないため「虚偽広告」や「誇大広告」になります。例えば、以下のような写真の掲載はNGであるため、注意しなくてはいけません。
医療機関の多くは、施術前と施術後の写真を診療録(カルテ)の一部として記録しています。これは、広告に載せる・載せないに関わらず、治療の記録として保存するためのものです。
診療録として撮影した写真で、非常によく施術効果があらわれ、わかりやすいビフォーアフター写真となった場合、無断で広告につかうのはNGです。ビフォーアフター写真として広告する場合は、必ず本人の同意を得る必要があります。これは自社のウェブサイトや広告ばかりではなく、ほかの媒体へ画像を掲載する場合も同様となります。
学術発表やセミナーなどの場で使用されるビフォーアフター写真は、医療広告ガイドラインの規制の対象外となりますが、個人のプライバシーに大きく関わるものであるため、トラブルを防ぐためにも写真を無断で使用するのは避けて、事前に了承を得るべきといえます。
昨今では、多くの医療機関が自院のウェブサイトやSNSなどでビフォーアフター写真を投稿しています。数ある医療機関の競合のなかで生き残っていくためには、受け手側の印象に残るわかりやすいビフォーアフター写真を医療広告ガイドラインに則った形式で発信することは、集客につながると考えられます。
令和元年に総務省が発表した「インターネットの利用状況」にもあるとおり、2018年における国民のインターネット利用端末として最も多いのはスマートフォン(以下:スマホ)で、SNSを利用している割合が多い年代は20代~30代でした。そのため、積極的にビフォーアフター写真をSNSに投稿することで、一般的に美容医療に興味や関心が高いとされる20代~30代をターゲットに、自院のPRをおこなうことができます。SNS閲覧中に目にとまったビフォーアフター写真に興味を持って、医療機関を受診するケースは少なくないと推測されます。
施術の前後で条件を変えたビフォーアフター写真を広告として掲載するのはNGですが、撮影機材・環境を整えて撮影することは違法ではありません。また、写真の撮り方のコツをつかむことで、施術効果を正当にわかりやすく伝える写真に仕上がります。
実際の肌質や肌色の状態を伝えるために、照明や一眼レフカメラを使用して撮影するとことが理想ですが、現実問題として医療機関でそのような機材を揃えるのは困難なケースがあります。その場合は、スマホでもビフォーアフター写真の撮影は可能です。
基本的な撮影の仕方や医療広告ガイドラインに従った掲載条件などを把握し、受け手側に印象が残る広告作成をおこなう必要があります。
医療広告ガイドラインは医療法をもとに厚生労働省が定めたもので、違反すると行政指導や罰則の対象となります。
違反した場合、管轄の保健所などから広告の中止や是正の命令が下されます。もし命令に応じず著しく悪質だと判断された場合に刑事告発がおこなわれ、最悪の場合、医療機関の開設許可取り消しなどの処分となる可能性もあります。
医療広告ガイドラインには広告の受け手側の健康や命を守るための大切な役割があります。患者の利益を守るためにも、医療広告ガイドラインの内容に従った運用を心がけてください。
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