唇を突き出すなど口元に力を入れたり、加齢によって生じるあごの梅干しジワは、あごの筋肉の一つであるオトガイ筋が原因です。筋肉の動きを抑制するボツリヌス注射を使用して、オトガイ筋の動きを抑制することであごの梅干しジワの改善が期待できます。
ただし、ボツリヌス注射の効果は一生続くわけではありません。ボツリヌス注射の持続時間や推奨される施術頻度などを事前に確認することは満足のいく施術効果を得ることにつながります。
また、ボツリヌス注射の施術にはリスクや副作用があるので、施術の前に確認しておくことで安心して施術が受けられます。
もくじ
あごの梅干しジワは、下あごにあるオトガイ筋の収縮が原因で生じます。
ヒトの筋肉は、意識をして動かす随意筋(ずいいきん)と心臓や胃のように意識をせずに動かす不随意筋(ふずいいきん)があり、あごの梅干しジワの原因であるオトガイ筋は随意筋です。
オトガイ筋は下あごを動かしたり下唇を動かす際に使われる筋肉の一つで、食べ物を咀嚼するときや不満を表すように唇を突き出したりするなど、唇が関係する表情を作るときに意識をして動かしています。
オトガイ筋は唇などの口元に力を入れたり抜いたりすることで鍛えることができる筋肉で、鍛えることであごのたるみ防止になるといわれていますが、鍛えすぎるとオトガイ筋が発達しすぎて日ごろから筋肉が緊張した状態が続き、口元に力を入れなくてもあごの梅干しジワが生じるとされています。
いわゆるゴボ口と呼ばれる上下の前歯が出ている状態の場合、前歯が出ていない場合に比べて口を閉じることが難しいため、口を閉じる際にオトガイ筋をより収縮させる必要があります。そのため、前歯が出ていない場合に比べてオトガイ筋が発達しやすく、梅干しジワができやすいといわれています。
ボツリヌス注射は、筋肉の動きを抑制する働きがあるため、発達したオトガイ筋に注射をすることで、オトガイ筋の緊張を和らげたり、動きを抑制することであごの梅干しジワを改善に導きます。
加齢によるあごの梅干しジワには、皮膚の3つの層が関係します。ヒトの皮膚は外側から表皮層・真皮層・皮下組織に分類されていて、皮下組織の下には筋肉があります。
皮下組織はおもに脂肪でできているため、皮下組織の厚さには個人差が大きくでますが、表皮層・真皮層の個人差はあまり大きくありません。下あごの表皮層は0.1mm~0.3mm、真皮層は2.0mm~3.0mmほどの厚さであるとの研究データがあります。
データからわかるように皮膚は脂肪が多い皮下組織を除くと、ほとんどが真皮層になります。そのため、肌の弾力に深く関係しているのは真皮層だといわれています。
真皮層は、おもにコラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸でできています。コラーゲンは網目状に真皮層に張り巡らされていて、網目がほどけないようにエラスチンがコラーゲンを束ねています。コラーゲンとエラスチンの間を水分を多量に保持できるヒアルロン酸がクッションのように満たしていて、肌に弾力を与えています。
しかし、加齢とともにコラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸は生成力が衰えて減少していく傾向にあります。コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸が減少すると真皮層に張り巡らされている網目が崩れてしまい、弾力が失われる上に真皮層の厚さも薄くなるとされています。
真皮層が薄くなるとオトガイ筋から表皮までの距離が近くなり、真皮層が厚かった時にはあごの梅干しジワが生じない程度のオトガイ筋の収縮でもシワとして生じるといわれています。
また、筋肉は加齢とともに萎縮するという研究結果もあり、オトガイ筋も加齢とともに萎縮します。萎縮したオトガイ筋は、意識をしなくても常に筋肉が収縮・緊張する状態が続くので、口元に力を入れていなくても梅干しジワが生じるとされています。
ボツリヌス注射を使用することでオトガイ筋の萎縮を緩和したり、動きを抑制することができるため、あごの梅干しジワの改善が期待できますが、真皮層が厚い場合に比べると効果が薄くなるといわれています。そのため、真皮層を物理的に厚くするヒアルロン酸注入を同時におこなうことで、あごの梅干しジワの改善に相乗効果が期待できるとされています。
食中毒の原因の一つであるボツリヌス菌が生成するボツリヌストキシンと呼ばれるタンパク質の毒素がボツリヌス注射の成分です。
ボツリヌストキシンはA型~G型の7種類に分けられていて、ヒトに影響を与える型はおもにA型とB型といわれています。ボツリヌストキシンの濃度が濃いと、四肢の麻痺を引き起こしたり、呼吸をする際に使用する筋肉が麻痺するなどの食中毒の症状がでますが、ボツリヌストキシンの濃度を薄めることで、注入した部位の筋肉の働きのみを抑制することができます。
ボツリヌストキシンの濃度を薄めた薬剤をボツリヌス注射で注入することで、筋肉の収縮によってできるシワや筋肉が発達することでできるエラなどを改善に導くといわれています。
ヒトの筋肉は、体中に張り巡らされている神経に脳や脊髄から指示を送ることで動かすことができます。筋肉を動かすように指示を送る際には運動神経を使用します。
脳や脊髄から筋肉を動かすように指示があると、運動神経の神経細胞が運動神経から筋肉組織に筋収縮をするように指示をおこなう物質であるアセチルコリンという神経伝達物質を合成します。合成されたアセチルコリンは神経細胞から放出されて筋肉組織に届き、筋肉の収縮がおこなわれます。
ボツリヌス注射の有効成分であるボツリヌストキシンは筋肉を動かす為に必要なアセチルコリンが神経細胞から放出されること阻害し、筋肉の収縮を抑制します。
ただし、ボツリヌス注射はボツリヌストキシンの濃度が高くないため、すべてのアセチルコリンの放出を阻害するわけではありません。そのため、必要な筋肉の収縮は可能で、あごの梅干しジワにボツリヌス注射をおこなったからといって口が閉じられなくなったりあごが動かなくなったりすることはありません。
ボツリヌス注射の施術をしてから2日~3日ほどでボツリヌストキシンの毒素の影響が及ぶといわれていて、期間がたつにつれて弱くなり、最終的には影響がなくなります。
ヒトに対して影響があるボツリヌストキシンにはA型とB型がありますが、型によって筋肉に影響しなくなるまでの期間が異なります。A型は3カ月~4カ月、B型は1カ月~2カ月ほどの期間、筋肉に影響を及ぼすとされています。
ボツリヌストキシンの筋肉への影響がなくなると、筋肉の動きはもとに戻ります。そのため、ボツリヌス注射は定期的な施術が必要であるとされています。
一度施術をおこなったあとは、ボツリヌストキシンの効果が切れる3カ月~4カ月を目安に次の施術をおこなうことが推奨されています。ただし、一度施術をおこなって3カ月未満での施術は推奨されていません。定期的に施術を受けたい場合は、ドクターと相談して次の施術日を決めると安心です。
美容医療では、効果の持続期間が長いとされるA型のボツリヌストキシンを使った薬剤をおもに使用しています。A型のボツリヌストキシン製剤は、日本や海外などさまざまなメーカーが開発・販売しています。
A型のボツリヌストキシン製剤は多数ありますが、アメリカのアラガン社が開発・販売しているボトックスのみが厚生労働省から認可を受けている薬剤で、厳しい管理の下で製造・保管・輸送されています。
厚生労働省に認可を受けていると、副作用などによる健康被害が万が一発生した場合に、医薬品副作用被害救済制度という公的な制度による救済給付の対象となります。
※副作用救済給付はすべての健康被害が対象ではありません。
注射針にはG(ゲージ)と呼ばれる針の太さの単位があり、Gの数字が大きくなるほど細くなり、針が細いほど注射時の痛みを感じにくいとされています。
病院などの採血や点滴では24G~26Gの注射針が使われることが一般的ですが、美容医療では痛みを感じにくくするために30G~34Gなどの注射針を使用することが多いとされています。また、メーカーの開発により、より細い針の開発も進められていて、今後も痛くない針が発売されていくといわれています。
ボツリヌス注射でも30G~34Gや34G以上の細い注射針を使う医療機関が多く、痛みは軽度とされています。また、顔の中であごは痛みを感じにくい場所とされているため、梅干しジワへのボツリヌス注射は顔の他の部位よりも痛みが小さいといわれています。
痛みに弱く不安な場合は、麻酔クリームで表面麻酔をおこなうことでさらに痛みを軽減できます。不安な場合は、事前にどのゲージの注射針を使用するのか、麻酔クリームを使用しての施術が可能か事前に医療機関にご確認ください。
注射をした部位に2日~3日ほど赤みが出る場合がありますが、メイクで隠せる程度です。メイクは当日の施術直後から可能です。
過去に施術を受けたことがある場合は、受けた時期と投与量を事前に確認して、診察・カウンセリングの際にドクターに伝えてください。
ボツリヌス注射の施術回数や投与量によっては、ボツリヌストキシンに抗体ができている可能性があります。過去に施術を受けたことを申告せずに施術を受けると、期待した効果が得られない可能性が高くなります。
1) 診察・カウンセリング
既往歴や体調などを確認してボツリヌス注射の施術が可能かドクターが診察します。疑問点やリスク・副作用に不安があれば、診察の際に確認して納得してから施術をおこなってください。
2) クレンジング・洗顔
メイクを落して洗顔をし、注射部位を清潔にします。
3) 麻酔
痛みに不安があるかたはクリーム麻酔をおこないます。クリーム麻酔の効果があらわれるまで20分~30分待ちます。麻酔が効いたことを確認してクリームふき取ります。
4) 注射
ボツリヌス注射をあごに注入していきます。5分程度の時間で施術が終了します。
5) クーリング
注射部分が赤くなることがあるため 冷やして皮膚を落ち着かせます。
6) メイク
施術後メイクが必要な方はメイクをおこなっていただけます。
ボツリヌス注射の注入量は、mlやccなどではなく、「単位」とあらわされます。
ボツリヌス注射の製剤は、粉状になっていて医療機関で生理食塩水と混ぜられて注射液になります。注入部位などによってボツリヌス注射の成分であるボツリヌストキシンの濃度を変える必要があるため、mlやccであらわすと注射液の量が同じでも濃度が異なる可能性がでます。そのため、ボツリヌス注射の濃度が分かるように粉状のボツリヌス製剤の量を単位と表しています。
あごの梅干しジワには10単位から顔面筋の状態によっては量を増やす傾向にあります。注入量が多くなったり使用するボツリヌス製剤によって料金は異なりますが、10単位のボツリヌス注射であれば30,000円~50,000円が料金の目安になります。
梅干しジワは、オトガイ筋の発達だけでなく加齢でも目立つようになります。ヒトの皮膚は、外側から表皮層・真皮層・皮下組織に分かれていて、皮下組織の下に筋肉があります。表皮層や真皮層は加齢とともに薄くなるというデータがあり、表皮層や真皮層が薄くなると表皮から筋肉までの距離が短くなります。
あごの表皮層や真皮層が厚い場合と薄い場合では、オトガイ筋の収縮量が同じだとしてもあごの梅干しジワの目立ち方が異なります。また、筋肉は加齢とともに萎縮していくため、意識をしなくても筋肉が収縮する状態になります。そのため、表情の変化がなくても梅干しジワが生じるとされています。
表皮層や真皮層が薄くなればなるほど、少しの表情の変化や筋肉の萎縮であごの梅干しジワが目立ちやすくなるとされています。そのため、ボツリヌス注射の施術をおこなっても期待した効果が得られない可能性があります。
しかし、真皮層にヒアルロン酸注入をすることで物理的に真皮層を厚くすることができます。ボツリヌス注射でオトガイ筋の萎縮を緩和したり動きを抑制し、さらにヒアルロン酸で物理的に真皮層を厚くすることで、加齢で目立つようになった梅干しジワへの相乗効果が期待できます。
ゴボ口と呼ばれる上下の前歯が出ていて口が閉じにくい状態から口を閉じようとすると、あごの梅干しジワの原因であるオトガイ筋が発達します。そのため、ゴボ口でない方に比べてあごに梅干しジワができやすいといわれています。
歯科矯正で上下の前歯を矯正することで、いわゆる出っ歯が改善され、口を閉じやすくすることができるため、オトガイ筋の発達や収縮が抑制でき、梅干しジワを改善に導きます。
歯科矯正には、施術期間が数年など長期間にわたるのに加えて、歯列の状態によっては施術費用が100万円を超えるなど高額になるデメリットがあります。しかし、歯列を矯正してゴボ口を改善することで、口元の見た目を変えることができるメリットもあります。
あごの梅干しジワに対してボツリヌス注射を注射する際は、一ヵ所のみに薬剤を注射するわけではありません。梅干しジワの原因であるオトガイ筋全体にボツリヌストキシンの効果がでるように少量ずつ場所を変えて注射をおこないます。
しかし、顔の筋肉の付き具合やオトガイ筋の状態を把握していないと、注射場所を変えてボツリヌス注射をおこなってもオトガイ筋の動きに左右差が出たり上下差が出るリスクが高まります。解剖学に精通しているドクターであれば安心して施術を受けることが可能です。
また、ボツリヌス注射の施術をおこなう際、注射口から細菌が入ると細菌感染のリスクがあります。細菌感染のリスクを避けるためにも衛生管理を徹底している医療機関を選ぶと安心です。