ピコトーニングとは、レーザー1ショット当たりの照射時間がピコ(1兆分の1)秒単位で発振されるピコ秒レーザーによるトーニング照射の施術をいいます。
トーニング照射とは、ピコ秒レーザーでできる照射方法のひとつで、シミ・そばかす、くすみ、テクスチャーといった肌全般の悩みを改善するトーンアップ効果が期待できます。
多くの医療機関でおこなわれている照射方法ですが、トーニング照射の特性を知らずに受けると「効果がない」という印象を持たれる可能性があります。ピコトーニングを受ける前に施術の特徴のほか、組み合わせて受けると相乗効果が期待できる施術、リスク・副作用や注意事項を知って、安心したうえで満足のいく施術を受けてください。
もくじ
レーザーのエネルギーの強さは、単位面積当たりの1ショットの平均エネルギー密度である「フルエンス」で表されますが、低フルエンスで照射する方法をトーニング照射といいます。
トーニング照射は、顔全体に広がるシミやそばかす、くすみを改善する治療に用いられます。弱いエネルギーのレーザーを照射するため、施術前の肌の状態に戻るダウンタイムがほとんどなく、皮膚に負担をかけない施術として知られています。
レーザーの照射方法には、連続照射のほかに一定の時間をあけて間欠的に照射するパルス照射といわれる方法があります。パルス照射による1ショット当たりのレーザー照射時間を「パルス幅」といいます。
パルス幅がピコ秒単位のレーザーがピコ秒レーザーで、美容医療でつかわれるレーザーには、「ショートパルスレーザー」ともいわれるピコ秒レーザーのほかに「Qスイッチレーザー」といわれるナノ秒単位のレーザー、そして「ロングパルスレーザー」といわれるミリ秒単位のレーザーがあります。
ピコ秒(ps) | 1/1,000,000,000,000s(1兆分の1秒) |
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ナノ秒(ns) | 1/1,000,000,000s(10億分の1秒) |
マイクロ秒(μs) | 1/1,000,000s(100万分の1秒) |
ミリ秒(ms) | 1/1,000s:ロングパルス |
多くのレーザー治療では、シミの原因であるメラニン色素や赤ら顔の原因である赤いヘモグロビンを、熱で破壊して肌の悩みを改善しますが、ピコ秒レーザーの特徴は、熱による破壊ではなく、衝撃波により粉々に粉砕できる点です。
トーニング照射は、レーザーマシン「MedLiteC6」によるQスイッチYAGレーザーの低フルエンスの照射が「レーザートーニング」と呼ばれたことがはじまりといえます。
このことより、低フルエンスによる照射はトーニング照射といわれ、ピコ秒レーザーによるトーニング照射はピコトーニングといわれています。
Qスイッチレーザーによるレーザートーニングは、レーザー照射で対象を破壊する際に熱が発生します。
そのため、破壊力を強くしたいがためにレーザーのエネルギー(フルエンス)を強くすると、熱がまわりの細胞に伝わることによる、炎症後色素沈着ややけどなどの副作用を気にしなければなりません。
一方、同じ対象物をピコトーニングで狙った場合、ピコトーニングの衝撃波は、対象物に作用する瞬間的な力であるピークパワーと破壊力が大きいため、強いエネルギーは不要です。
また、衝撃波は対象物の中にエネルギーを閉じ込めて粉砕するため、まわりの細胞に熱のダメージが加わることがありません。強いエネルギーが不要なこととまわりに熱のダメージが加わらないことから、炎症後色素沈着ややけどといった副作用のリスクが低いといえます。
シミはメラニン色素の量が多いほど濃くなり、少ないほど薄くなります。そのため濃いシミほど効果が得られやすい傾向にあります。ただし、衝撃波であれば、小さなターゲットでも狙うことができるため、Qスイッチレーザーでは改善できない薄いシミでも、ピコトーニングでは目立たなくなる可能性があります。
ピコ秒レーザーのマシンにはいくつか種類がありますが、それぞれのマシンによるトーニング照射はすべてピコトーニングということになります。
ピコ秒レーザーのマシンはすべてピコ秒単位ではあるもののパルス幅が異なり、波長も異なります。
レーザー(Laser)とは「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字からつくられた略語で、意味は「誘導放出による光の増幅」です。
太陽の光や白熱電球などの光は複数の波長(色)の集まりですが、光から必要とする波長を取り出して人工的につくられるのがレーザーです。
波長は、炭酸ガス・ルビー・アレキサンドライト・イットリウム(Y)・アルミニウム(A)・ガーネット(G)など「レーザー媒質」といわれる物質によって取り出され、レーザーはレーザー媒質に基づいて「ルビーレーザー」「YAGレーザー」などと呼ばれます。
ピコ秒レーザーには、YAGレーザー(1064nm)、アレキサンドライトレーザー(755nm)、ルビーレーザー(694nm)などがあります。
ある一定までは波長が長いほど皮膚深くに届く深達度が深くなります(波長が2940nmのEr:YAGレーザーは水分によく反応することから、波長が長いものの皮膚表面で吸収され、深達度が浅いレーザーです)。また、波長によってメラニン色素やヘモグロビンに反応する(吸収される)度合いが異なることで、施術結果に違いがあらわれます。
トーニング照射では、メラニン色素を作るメラノサイトを刺激することなく、メラニン色素を破壊できるといわれています。
破壊されたメラニン色素は、機能不全となった細胞を消化する「マクロファージ」によって体外に排出され、徐々にシミやそばかすなどを改善に導きます。
局所的ではなく全体的に照射できるため、肌全体のくすみが改善され、色ムラのない明るい肌を目指せます。
肝斑は、30代~50代の女性に多く見られる症状です。原因についてはまだ詳しくわかっておらず、紫外線によるメラニンの過剰生成のほか、女性ホルモンのバランスの乱れや肌へのこすり刺激など多くの原因によって起こる症状といわれています。
紫外線が原因である老人性色素斑と見分けがむずかしいことがありますが、違いとしては目の下から頬にかけて、左右対称に逆三角形の範囲にできる点です。また、刺激によって悪化する傾向にあり、老人性色素斑を治療するレーザー治療も、肝斑は禁忌とされていました。
しかし、レーザートーニングによって均一なエネルギー密度で照射することで肝斑も改善が期待できるとして、多くの医療機関で施術がおこなわれています。
ただし、照射方法の訓練を行わないと、肌の色素が失われる「白斑」(はくはん)が発生する可能性が高まるため、症例数が多く、技術指導がしっかり整っているクリニック選びが大切です。また、画像肌診断機で白斑が生じていないかを確認して予防することがすすめられます。
美容医療のなかには、皮膚が薄い目もとの施術ができないものもありますが、ピコトーニングは低フルエンスで照射エネルギーが弱いため、目の下への照射も可能です。
また、顔だけでなく、手の甲や背中といった体への照射もできるため、体の気になる黒ずみも改善が期待できます。
パルス幅がミリ秒単位の光治療は、ピコ秒レーザーよりパルス幅が長いことで、大きなターゲットを破壊するのが得意といえます。
そのため、メラニン色素が大きく濃いシミや厚さのあるシミなどは、光治療で施術をおこない、取れ残った場合にピコトーニングをおこなうこともあります。光治療では改善できなかったメラニン色素が少ない薄いシミでも、ピコ秒レーザーでは衝撃波により改善が見込めます。
光治療のマシンとしてはアイコン、BBLやフォトフェイシャルM22、フォトシルクなどがあげられます。
ピコ秒レーザーではトーニング照射のほかに、レーザーを点状に照射するフラクショナル照射と、局所的に狙えるスポット照射が可能で、ピコ秒レーザーによるスポット照射はピコスポットといわれます。
ある一点のシミを改善したい場合は、トーニング照射よりもスポット照射が有効です。
ピコフォーカスとは、ピコ秒レーザーによるフラクショナル照射のことで、ピコフラクショナルともいわれます。
フラクショナル照射は、皮膚に点(シャワー)状にレーザーを照射する方法です。レーザーが当たらない部位と当たる部位を意図的に点在させることで、レーザー照射によるダメージの回復を早める照射方法とされています。
皮膚は外側から表皮層・真皮層と層状になっており、皮膚の大部分である真皮層には、コラーゲン・エラスチン・ヒアルロン酸といった、肌を健康に保つ成分が含まれています。
これらの成分を作り出す細胞は「線維芽細胞」といわれ、フラクショナル照射により刺激を受けて活性化すると、真皮層にある成分の生成が促進されます。
これによって、肌のハリ・キメの改善、毛穴の引き締めや小ジワの改善が期待できます。
トーニング照射でも、レーザーの熱により毛穴の引き締めや小ジワ改善効果はゼロではありませんが、より線維芽細胞の活性化による効果を希望する場合は、フラクショナル照射が有効といえます。
ピコ秒レーザーでは、照射レンズを付け替えることでフラクショナル照射が可能であるため、トーニング照射と同日に、フラクショナル照射を受けることも可能です。
また、トーニング照射・スポット照射・フラクショナル照射の3つの照射を同日におこなうことも可能です。
ジェネシスとはロングパルスYAGレーザーのマシンで、低フルエンス・中空照射で施術がおこなわれます。ジェネシスによる施術はレーザーピーリングともいわれ、古い角質を除去し、皮膚表皮の新陳代謝であるターンオーバーの促進などの効果も期待できます。
ピコトーニングで肌の悩みを改善した後、定期的なメンテナンス施術としてすすめる医療機関もあります。
ピコトーニングをおこなう前に、下記のような内服薬や外用薬、医療用のスキンケア用品で治療をおこなう場合もあります。もしくは、ピコトーニングによる施術と併用されることもあります。
トラネキサム酸 | 内服 | メラニン色素の生成を抑制・炎症を防ぐ |
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ビタミンC | 内服 | メラニン色素の生成を抑制 |
ビタミンE | 内服 | メラニン色素の生成を抑制 |
レチノール | 外用 | 毛穴の引き締め・小じわ改善・ターンオーバーの促進 |
ハイドロキノン | 外用 | メラニン色素を生成する酵素を抑制 |
ゼオスキンヘルス | 化粧品 | 医療用スキンケア化粧品 |
薬剤を皮膚に塗布することで古い角質を除去するピーリング施術は、ピコトーニングの前におこなうことで、よりレーザーのエネルギーが皮膚の奥まで届きやすくなります。 ピーリング施術の種類としては、ケミカルピーリング、コラーゲンピール(マッサージピ―ル)、ピーリングマシンのハイドラフェイシャルなどが挙げられます。
イオン導入は、微弱な電気を流すことで肌に有効成分を導入する施術で、超音波導入は、超音波による振動で有効成分を肌に浸透させる施術です。 いずれもピコトーニング後におこなうことで、施術後の肌の回復をサポートします。なお、有効成分には以下のような種類があります。
ダーマペンは針のついたペン型の美容マシンで、皮膚に穴を開けることで傷を回復しようとする創傷治癒力を利用する美容医療です。肌の有効成分と組み合わせると、針穴から有効成分が皮膚の奥まで浸透します。
ダーマペンとトーニング照射を別日におこなう組み合わせ治療は、それぞれ単独で施術をおこなうより相乗効果が期待できます。
有効成分を肌に注入する水光注射も同様に、トーニング照射と組み合わせるメニューとして紹介されることもあります。
ダーマペンと水光注射における肌の有効成分には、以下の種類があります。
施術間隔や回数は肌の状態によって異なりますが、2週間~4週間に一度のペースで、10回~20回など複数回の施術を受けることが推奨されています。
メラニン色素は徐々に排出されていくため、施術を重ねることで効果があらわれます。
ピコトーニングは自由診療のため、保険適用外で医療機関ごとに料金が異なります。
ピコトーニングはほとんどの場合、複数回の施術が推奨されていて、顔全体への施術で1回につき15,000円~50,000円程度です。なかには、はじめての方であればトライアル料金として10,000円以下で設定している医療機関もあります。
ピコトーニングは低フルエンスで照射していく治療のため、基本的にはダウンタイムはほとんどありません。施術直後からメイクが可能で、洗顔やシャワーも当日から可能です。
ただし、一般的にレーザー治療の当日は、飲酒や激しい運動、サウナなど血行をよくする行為は、赤みや腫れが強くなる可能性があるため控えることが推奨されています。
まれに照射部位に薄いかさぶたが生じる場合がありますが、数日程度で自然に改善します。炎症後色素沈着が生じる可能性がありますので、自然消退を待つようにします。
レーザーを照射することで、一時的に腫れや赤み、点状出血が生じる場合がありますが。半日~1日程度ほどで落ち着きます。
肝斑の施術をおこなった場合、繰り返し施術をおこなうと皮膚の色がなくなる白斑を起こす可能性があります。2、3カ月~半年程度で改善されるといわれていますが、施術頻度や回数は、ドクターの診察に従ってください。
トーニング照射では基本的に麻酔をすることがほとんどありません。 痛みが心配な方は、医療機関によっては塗るタイプの麻酔を用意しているため、施術前に確認すると安心です。
ピコトーニングは、複数回の施術で徐々に効果があらわれるため、一回の施術では効果を感じられないことが少なくありません。そのかわり、痛みや副作用・リスクが少ない施術で、人前に出る仕事でもお休みを取らずに治療できます。
日焼け後であったり照射部位の日焼けの程度によっては、当日の施術ではなく後日に延期となる場合もあります。
(1)カウンセリング・診察
肌の悩みや施術の希望を伝えて治療方針を決めます。不安なことや心配なことがある場合は、このときに質問して解消するようにします。
(2)クレンジング・洗顔
顔への施術の場合は、クレンジングでメイクを落とし、洗顔をおこなって肌を清潔な状態にします。
(3)写真撮影・着替え
施術前の肌の状態を確認するために、写真撮影をおこないます。また、体への施術の場合は施術の専用着に着替えます。
(4)施術
レーザー照射から眼を保護するために、シールドを装着してから照射していきます。
(5)クーリングをして終了
施術部位を冷やして終了です。
ピコトーニング後は、肌が非常に敏感な状態になっていますので、紫外線予防を心がけて保湿を十分におこなう必要があります。
照射時間自体は5分~10分程度です。フラクショナル照射も同時に受けるなど、別メニューと組み合わせる場合は、その分施術時間も長くなります。
なお、ピコ秒レーザーによるトーニング照射は、低出力で照射することから刺激が少なく、敏感肌の方やアトピー肌の方でも治療を受けることは可能とされますが、詳しくは医療機関でご相談ください。
ドクターによる診察で推奨される治療回数の途中で中断すると、効果が期待できない可能性もあるため、治療計画にしたがい、保湿と紫外線対策をおこなうなど、毎日のスキンケアにも気を配ることが大切です。
トーニング照射はマシンの先端であるハンドピースを振り子のように動かしながらおこないます。一定の速度で均一にそしてムラなく照射する必要があり、施術者によって効果に差が出るともいえるため、SNSなどにより施術の様子や症例数なども確認しておくと安心です。
また、皮膚の真皮層にメラニン色素が存在する「ADM」のようにトーニング照射では改善がむずかしい症状もあります。ピコトーニングで改善できる症状であるかをしっかり診断する実績のある医療機関を選ぶ必要があります。
記事を監修いただいた堀田和亮先生にピコトーニングについて教えていただきました。
監修医師の紹介
ビアンカクリニックの院長である堀田和亮医師。大手クリニックの院長職を経て、レーザートーニングを専門とするクリニックを立ち上げ、全国各地で指名される統括医師として活躍。2018年に「BIANCA cosmetic surgery & medical spa」を開院し院長に就任。取り扱うメニューは美容外科から美容皮膚科まで幅広く、人気ぶりはSNS等からもうかがい知れる。