医療アートメイク(以下、アートメイク)には、眉・アイライン・リップラインなどもありますが、ヘアアートメイクは、頭皮におこない髪に見立てるアートメイクです。
髪の毛は頭皮の血行不良や紫外線・乾燥などの影響をうけることで、加齢とともに1本1本が細くなり本数が少なくなる傾向にありますが、髪の毛の減少やもともとボリュームが少ないことで悩まれている方に有効な施術で、頭部の地肌を目立たなくすることができます。
また、ヘアアートメイクはこのような薄毛の対処法としてだけでなく、額の髪の毛の生え際にアートメイクを施すことで小顔効果も期待できます。
満足のいくイメージ通りの施術効果を得るために、事前にリスク・副作用やほかの薄毛治療との違いも知っておく必要が大切です。
もくじ
ヘアアートメイクはイギリスで生まれたSCALP MICRO PIGMENTATION(スカルプマイクロピグメンテーション、SMP、メディカルSMP)といわれる薄毛をカバーする方法がもととなってはじまったとされています。
SMPの技術は、英国HIS Hair Clinic のIAN WATSON(イアン・ワトソン)夫妻によって開発され、頭皮に点状に染料を針で注入していくことで地肌を目立たなくする方法です。
現在では点ではなく髪の毛のようにライン状に針で注入する方法でも施術がおこなわれており、アートヘアー、生え際アートメイク、ヘアラインアートメイク、ヘアタトゥー、頭皮アートメイク、頭皮タトゥーなどさまざまな名称があります。
アートメイクの特徴として、刺青(タトゥー)と異なり効果が半永久的ではないことがあげられます。そのため、髪の毛の色調の変化にあわせて、その時の髪色にあわせて調合した染料でメンテナンスできるため、違和感なく地肌を目立たなくする効果が期待できます。
ヘアアートメイクは皮膚に染料を入れていくため、施術直後に変化を確認できます。
額の生え際の産毛の間を埋めるように施すと、額の面積が小さく見えるようになることで小顔の印象になります。立体的で丸みのある額に見せる効果が期待できます。
髪の毛が薄くなり地肌が見える生え際や・つむじ・分け目におこなうことで、薄毛が目立たなくなります。日ごろの髪型や分け目の習慣で見えやすくなった地肌を隠したい方にも有効といえる施術で、以下のような症状に効果が期待できます。
牽引性脱毛症 |
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髪を長く伸ばしている女性は、髪を結んだり左右に分けることで、髪が髪の重さに引っ張られ生え際や分け目が薄くなることがあります。これは牽引性(けんいんせい)脱毛症といわれる症状で、結ぶ位置や分け目を変えることで改善するとされますが、へアアートメイクでカバーすることができます。 |
男性型脱毛症(AGA) |
思春期以降の成人男性によくみられる髪が薄くなる症状で、薄毛に悩む男性のほとんどがAGAともいわれています。額の髪の生え際・頭頂部の髪の毛が薄くなる傾向が多く、遺伝や生活習慣、ホルモンバランスなどさまざまなことが原因として考えられています。自然に改善することはむずかしいく、改善するには治療が必要とされます。 |
びまん性脱毛症 |
女性に多く見られる症状で、生え際の後退など部分的ではなく、髪の毛の密度が低くなることで全体的に薄くなります。原因としては、日ごろのヘアケアや生活習慣、食生活の乱れなどが考えられており、睡眠や食生活、ヘアケアの仕方を見直すことで改善する場合もあるとされます。 |
M字おでこ |
額の左右の生え際が中心より後退している状態で、若い女性でも薄いことに悩む方がいます。額の左右の髪の生え際にヘアアートメイクを施すと、額の面積が狭くなることで小顔効果も期待できます。 |
手術の跡や円形脱毛症など、部分的あるいは一時的に髪が生えなくなった部位にヘアアートメイクをおこなうことで、地肌を目立たなくすることができます。
もみあげについてはおこなっている場合とおこなっていない場合がありますので、医療機関にご確認ください。
染料を点状に入れていく方法 |
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髪が薄くなっている坊主頭の方にも有効で、点状(ドット)に染料を入れていく方法です。髪の毛の分け目やつむじ、額の生え際において、不自然にならないよう濃さを調整しながらムラをなくしていきます。 |
染料をライン状に入れていく方法 |
髪質を見て自然になじむように、ライン状に毛の流れに沿って1本ずつ染料を注入していく方法です。おもに額の髪の生え際やもみあげの薄毛をカバーする際につかわれます。 |
医療機関によっては、ライン状に入れる方法はおこなっておらず点状に入れていく専門の機関もあります。
皮膚は外側から表皮層・真皮層・皮下組織と層状になっていますが、ヘアアートメイクの染料は、皮膚の表皮層から真皮層の上層に注入します。
表皮層の細胞は、「分裂」やほかの役割を持つ細胞へと変化する「分化」を繰り返しながら上層に移動していき、やがて剥がれ落ちる「ターンオーバー」を繰り返しています。
ヘアアートメイクの色素も表皮層のターンオーバーにより、やがて古い角質とともに剥がれ落ちるため、徐々に薄くなっていきます。そのため、ヘアアートメイクの効果の持続は、個人差はあるものの1年~3年といわれており、半永久的ではりません。
なお、およそ28日間といわれている皮膚・表皮層のターンオーバーの周期は、加齢にともなって長くなるため、色素が薄くなるスピードは若いかたほど早いといえます。
また、頭皮は油分があることで色素が落ちやすく、眉・アイライン・リップラインなどにおこなわれるアートメイクと比較すると、効果の持続が短くなる傾向にあります。
色素は体にとっては異物となるため、針による傷口から色素を排出しようとする体の防御作用が働きます。そのため複数回施術を重ねることで定着させていきます。
必要な施術回数は、体質により異なりますがおよそ2回~3回程度とされています。
ヘアアートメイクは染料を針で注入していく施術であるため、施術後、施術部位は赤みや炎症があり、その後かさぶたが形成されます。炎症やかさぶがあると施術をおこなうことはできないため、色素を定着させるための次の施術は、約1カ月後が目安です。
約1カ月に一度、2回~3回の施術で色素が一度定着すると、そのあと1年~3年程度、持続するといわれています。
長期的に持続するためには、「リタッチ」ともいわれるメンテナンスをおこなう必要があります。数カ月後に変化がある場合もあれば、2年~3年経っても色落ちしない場合もあり、色落ちの程度により異なりますが、一般的に1年に一回程度のメンテナンスが推奨されます。
また、色が薄くなるだけでなく、青っぽくなったりグレーっぽくなるなど色調が変化することがあるため、施術時の髪色にあわせながら、色調の変化を考慮して染料が調合され、白髪がある場合でも、色調を調整することで施術がおこなわれます。
ヘアアートメイクは自由診療になり保険適用外で、医療機関によって費用が異なります。3㎠程度の範囲におけるポイントの施術では、一回あたり30,000円~60,000円程度です。
医療機関によっては、生え際・頭頂部、などの部位ごとに料金設定している場合もありますし、2回分セットの料金となっている場合もあり、料金設定もさまざまです。また、リタッチ料金は安く設定されている場合もあります。
施術は、使い捨ての針を装着したペン型の器具によっておこなわれ、染料を針につけて注入していく作業が繰り返されます。
日本の厚生労働省に認められている染料はなく、アメリカのFDA(米国食品医薬品局)に認可されている染料が多くの医療機関でつかわれています。FDAは日本の厚生労働省にあたります。
アートメイクでつかわれる染料は、水やスキンケア用品などにも含まれるグリセリンに色素を混ぜて人工的に作られます。色素のおもな成分は、FDAに化粧品の成分として認められている酸化鉄と二酸化チタンで、マスカラやアイシャドウなどの化粧品にも含まれている成分です。
酸化鉄は種類によって色味が異なるため、配合を変えることでさまざまな色を表現します。
刺青(タトゥー)に使用される染料には、鉄粉など金属性の成分により、MRI検査で生じる電磁波によって施術部位において熱が生じ、やけどの危険性が心配されます。
一方、ヘアアートメイクに使用されている染料においては、MRIでやけどになる量の金属性の成分は含まれておらず検査への影響もほとんどないとされますが、心配な場合はMRI検査をおこなうドクターにご相談ください。
髪の毛は、毛髪をつくる「毛母細胞」が細胞分裂することで成長します。
皮膚は外側から表皮層・真皮層・皮下組織と層状になっていますが、毛母細胞をふくむ球状の「毛球部」があるのは、皮膚の真皮層で、ヘアアートメイクで染料を注入するのは、表皮層から真皮層の上層あたりです。
毛母細胞は真皮層でも皮下組織に近い下の方にあるため、ヘアアートメイクが毛母細胞にダメージを与えることはないとされます。
円形脱毛症などで一時的に髪が生えなくなったような場合でも、ヘアアートメイクであれば次の髪の毛の成長に影響を与えることなく症状を目立たなくすることが可能といえます。
また、アトピー性皮膚炎で炎症により毛母細胞の働きに影響がおよぶと、髪の毛が抜けやすくなる場合があります。この場合にもヘアアートメイクは有効ですが、色素が定着しづらく、色素が通常より早く薄くなることもあるため、施術頻度などは医療機関にご相談ください。
薄毛の対処法や治療法としては、毛髪を移植する植毛や残っている毛髪に人工毛髪をとりつける増毛、抜け毛を予防する内服薬や、育毛を促進する外用薬の使用などが挙げられます。
植毛には自毛移植と人工毛移植があり、自毛移植では拒絶反応が起こらず人工毛移植であえば直ぐに生えそろい、それぞれにメリットがあります。自毛植毛では、後頭部や側頭部から採取した毛髪を、毛髪を成長させる細胞ごと移植することになります。
抜け毛を予防する内服薬「フィナステリド」や、抜け毛の予防と毛髪の成長を促す外用薬「ミノキシジル」により治療がおこなわれます。いずれも処方薬で、治療期間中は通院と毎日の服用が必要です。
自毛に人工毛を取り付けるため、自毛の成長とともに浮いてきてしまう人工毛のメンテナンスが継続されます。また、自毛の一本一本にかかる負担がかかり抜けやすくなるリスクがありますが、確実な効果と即効性がある方法です。
治療方法のひとつとして再生医療に基づいて開発された「ハーグ療法」があげられます。失われた毛髪を再生へ導きます。
毛髪の成長に関わる細胞に働きかけることで、発毛を促す治療で、1カ月おきに6回ほどの治療を継続することが推奨されます。
ヘアアートメイクでは長さを出すことはできません。また、根本治療ではなく髪が薄く地肌が見えることを目立たなくし、髪の毛があるように見せる対処方法で、毛量を増やしたり抜け毛を予防することはできません。
ヘアアートメイクは皮膚に染料を注入するため、施術直後に効果があらわれ即効性がある施術といえます。また、毛髪が成長する細胞や組織の状態にかかわらず施術効果があらわれます。
毛髪は毛周期といわれる成長サイクルを繰り返しています。
毛髪の寿命は男性であれば2年~6年、女性では4年~7年程度といわれており、成長期・退行期・休止期の毛周期を経てやがて抜け落ちます。AGAでは、この毛周期が0.5年~1年と短くなります。
毛髪の成長に関わる毛母細胞を含むヒトの細胞の細胞分裂には限界があり、毛周期の回数は決まっています。AGAで毛周期が短くなると毛周期のサイクルが早まり、決まった回数の毛周期を終えると、新たに髪の毛が生えてくることはなくなります。
AGA治療などの薄毛治療をおこなっても、毛周期が終わり細胞分裂が終わった状態であると、効果が得られない可能性があります。
ヘアアートメイクは、即効性があらわれにくい薄毛の治療と併用することが可能です。
薄毛治療による効果があらわれるまでの間、ヘアアートメイクで地肌を目立たなくすることもできます。
ヘアアートメイクは、ペン状の専用の器具に針を装着しておこなわれます。直接皮膚に触れる針を使いまわすなど、管理がずさんな場合は感染のリスクが高まります。
ただし、施術者が使い捨ての手袋を使い、針は施術ごとに新しいものに付け替えて使い捨てて、器具を滅菌処理するなどしっかりした衛生管理のもとでおこなわれることで、感染のリスクは避けられます。
アレルギーをお持ちの方やアトピー性皮膚炎の方は、施術前にパッチテストをおこない炎症などがないことを確認してからおこないます。
パッチテストは、耳の後ろの髪の毛に隠れる部位に微量の染料を注入し異常がないことを確かめる方法です。パッチテストは無料でおこなっている医療機関もありますので、心配な方は医療機関にご相談ください。
針で注入する施術であることから、施術後に赤みや腫れが生じる場合がありますが、1週間程度で落ち着くことがほとんどです。
痛みがある場合は、冷やしてクーリングし、ドクターの指示に従って軟膏を塗布し安静に過ごします。
施術では、塗るタイプの麻酔を塗布しラップで覆って30分ほど経って麻酔が効いてからおこないます。
痛みの感じ方は人それぞれですが、施術中は引っ掻かれるような痛みであったり鈍痛と表現されることもあります。
施術中にも強い痛みを感じる場合は、麻酔を追加できますので施術者にお伝えください。
施術後は腫れや赤みが生じる場合がありますが、3日〜1週間程度で落ち着きます。施術後1週間は、施術部位を刺激せず安静に過ごします。
痛みが強く残っている場合は保冷剤などで冷やしてクーリングします。
また、施術後3日程度は、薄いかさぶたが形成されることにより、色が濃くなったように見えることがありますが、徐々に色味が落ち着いてきます。
かさぶたや皮むけを無理に剥がすと、色ムラができたり炎症を起こすことにつながりかねません。刺激を与えず、自然に剥がれるのを待つようにします。
施術3日後 | ・腫れや赤み ・かさぶたにより色が濃くなる |
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1週間後 | ・施術部位の赤みやかわ剥けけなどが落ち着く ・軟膏の塗布など医療機関の指示に従う |
直前は日焼けしないように注意します。また、アルコールやカフェインは血管を拡張させる作用で出血や腫れを促進する可能性があることから施術を受ける前日から控えるようにします。
(1)カウンセリング
カウンセリングでデザインの希望を伝えます。
(2)マーキングと麻酔
希望のデザインに沿って、へラインにマーキングをします。その後、施術部位に塗るタイプの麻酔をおこない、ラップで覆って30分ほど時間を置かれます。
(3)施術
麻酔が効いてきたら、針に染料をつけて彫っていきます。痛みが強い場合は麻酔を追加しながらおこなわれます。
医療機関によっては、施術部位に染料を塗り込み、染料が定着しやすくなるクリームを塗布することもあります。
(4)拭き取って終了
染料やクリームなどを拭き取って終了です。
施術時間は、施術範囲や施術部位によりますが、2時間~3時間程度です。一度色素が入っている部位へのリタッチの施術では1時間~2時間程度とされます。
施術当日は、色素で枕が汚れる可能性があるため、気になる場合はタオルを使用します。また1週間程度は、帽子もさけて刺激が加わらないように注意します。
また入浴は翌日からとし、当日はシャワー浴とします。
シャンプーに含まれる界面活性剤により色素が薄くなる可能性があるため、施術当日は洗髪はできません。全体の洗髪は1週間後からが推奨されますが、3日後以降、施術箇所以外は洗えます。洗髪できない期間、気になる場合はウェットティッシュなどで拭く程度にします。
血行がよくなると赤みや炎症が生じるため、施術から2日~3日は運動や飲酒は控えます。
ヘアスプレーやワックス、ヘアカラー等などの施術部位への使用は1週間程度控えます。
温泉やプールのほか、エステやサウナは施術後1週間程度控えます。
ヘアアートメイクは、いわば皮膚の浅い層に針で傷をつけて色素を注入していくため、ダメージを受けて細菌への抵抗力が弱くなります。細菌によって炎症を起こすと色素が定着しにくいことがあるため、施術部位は清潔に保ちます。
また、施術後に形成されるはかさぶたや皮むけは自然に落ち着くのを待ち、刺激を与えないように注意します。無理にかさぶたや皮むけを剥がすとインクがにじみやすくなるためです。
また、施術後は軟膏で保湿することになりますが、過度の保湿はインクがにじむ可能性がありますので、適量を心がけてください。
そのほか、施術後2週間~3週間は、紫外線に注意します。紫外線を長時間浴びると皮むけの状態になり、紫外線によって影響を受けた色素が、体外から排出されることで色素が薄くなったりにじみの原因になることがあります。
妊娠中や妊娠の可能性がある方、また授乳中の方 |
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ホルモンにより皮膚が敏感になり肌トラブルを起こしたり痛みを感じやすい可能性があります。また麻酔をつかうことから胎児への影響が考えられます。 |
皮膚疾患・血液疾患・感染症・ケロイド体質の方 |
わずかな傷でケロイドが生じる可能性がある方は施術を受けることができません。 |
重度の金属アレルギーやそのほかのアレルギーのある方 |
施術前にパッチテスをおこない異常がないことの確認が必要です。 |
心臓疾患・高血圧や糖尿病、自己免疫疾患、がん治療終了後の方、ステロイドを服用している方 |
および服薬中の方は、主治医の許可を得てからアートメイクをおこないます。 |
アートメイクは色素の定着を考慮して、2回の施術で完成を目指すことがほとんどです。1回目の施術では希望より薄い状態とし、2回目でしっかり色素を入れていくことで濃くなり不自然になるような失敗を防ぐことができるといえます。
また、施術前のデザインを決める際にもしっかり希望を伝えイメージを伝えるようにします。
日本においてアートメイクは、2001年に厚生労働省より「針先に色素を付けて行為を行うことは医療行為である」という通達が出ています。
ドクターの指示のもと看護師が施術をおこなうことが義務付けらています。無資格者がおこなうことは医師法違反となるため、感染対策や衛生管理がしっかりおこなわれている医療機関にて、施術を受けてください。