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美容クリニックの法人化にあたり押さえておくべきポイントと進め方

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記事監修

古高崇幸税理士
古高 崇幸 税理士

こいのぼり会計事務所/こいのぼりコンサルティング株式会社

古高 崇幸先生のいる会計事務所

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クリニックを開業する医師なら誰もが気になるテーマに、個人で経営を続けるか将来的に医療法人化するかという問題があります。開業後まもなく経営が安定しないうちは、まだ現実味がない話かもしれません。

しかし、順調に実績を重ねて一定の利益を得られる状態になると、節税対策や事業拡大の検討などとの兼ね合いから「法人成り」を具体的に検討するようになります。法人化には労力も費用も必要になるため、後悔のないよう考え抜いて決断したいところです。

そこで個人経営と医療法人の違い医療法人化することのメリットとデメリット具体的な手続きなど、クリニックを経営する方が押さえておくべき基本的な内容をまとめてお伝えします。

まずはこれらの基本情報を把握した上で、ご自身の現状と将来の展望とを合わせて法人化の可能性について検討してみてください。「〜という条件が揃ったら動き出そう」など、経営の道標を考えるきっかけとしていただけたら幸いです。

個人の開業医と医療法人との違い

美容クリニックの法人化にあたり押さえておくべきポイントと進め方

医療法人は医療を提供する非営利法人

美容クリニックに限らず、個人でクリニックを経営するのと医療法人として医療を提供するのとでは多くの違いがあります。

個人でクリニックを開業する場合、経営者である医師が個人事業主として営利目的で活動しても大きな問題はありません。一方、医療法人とは医療法で定められた法人で、都道府県知事の認可を受けて設立するものです。

定義は「病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所又は介護老人保健施設を開設しようとする 社団 又は 財団 」(医療法第39条1項)であり、人の集まりを基盤にした法人、提供された財産を運営するためにつくられる法人の2つに分類できます。なお、いわゆる「クリニック」と称される医療機関は、「病院」ではなく「診療所」に該当します。

医療法人の最大の特徴といえるのが非営利性です。医療法では「営利目的の病院、診療所の開設を許可しないこととする」(第7条)とされ、「医療法人は、剰余金の配当をしてはならない」(第54条)と厳格な規制を設けています。前提にある「安定的な医療の普及」という公共性を全うするために、ほかにもさまざまな制約とメリットが与えられています。

法人化すると税務上どのような変化があるか

開業医に対して課される税金とは、主に所得税・住民税・消費税です。医業での収入は経営する医師個人の事業所得となり、収入金額から必要経費を控除した残額に対し所得税の累進税率、住民税の10%および事業税が課されます。

所得税法では課税所得金額に応じて段階的に税率が設定されています。課税所得が1,800万円を超えると約40%、4,000万円を超えると約45%の税率になります。ここに住民税と事業税が加算されるため、利益が大きくなればなるほど税負担は重くなるということになります。

医療法人化した場合に最も違うのはこれらの税率差です。法人の場合、課税所得800万円までは約20%、それを超えても約30%の税率です。個人の税率が住民税を合わせて56%相当の所得で医療法人化した場合、約36%分の税率が抑えられることになります。さらに、医療法人は社会診療報酬分については事業税が非課税になるなどの特例もあります。

また、医業収入のうち自由診療などによる売上は消費税法における課税売上に該当し、それらの収入金額が1,000万円を超える場合には消費税の納付義務が出てきます。美容クリニックでは自由診療に該当する売上が多く、資金繰りに与える影響も大きいことから、この点を意識しておく必要があります。

このように法人成りすると税法上の扱いが大きく変わるため、開業後一定の収入が得られるようになったタイミングで医療法人設立を検討する開業医が多いのです。

美容クリニックを法人化することのメリット

1. 経済的な優遇措置がある(節税対策)

法人化した場合の税務上の変化として、個人よりも医療法人の方が最高税率が低い点をあげました。ほかにもさまざまな優遇措置が定められており、うまく活用することで税金の減額や生涯年収の確保につながります。

消費税は当初免税

個人で消費税を納めている方は、医療法人化後1年~2年は消費税を納める義務がないことが多いです。

保険料は費用に計上可能

個人の開業医が生命保険に加入した場合、減税の効果としては生命保険料控除として最大でも12万円の所得控除に限られます。しかし医療法人として契約する場合、より多くの金額を費用として計上できます。

給与所得控除の対象に

医師個人に生活費などでお金を移す場合、個人開業医には給与という概念はありません。法人化することで医師への給与(役員報酬)を費用として法人に計上できるようになり、医師個人は給与所得者となり給与所得控除を受けられます
※給与所得控除とは、給与所得者に認められている税金を減額する効果がある控除のこと

退職金支払い、損金計上が可能

医療法人の場合は、退職時に「役員退職金」を支払い、費用として計上することが認められています。

所得の分散につながる

事務方などとして勤務実態があれば、医師が自身の家族を医療法人の理事に加え、役員報酬を支払うこともできます。所得を分散することで、一家としての税金を抑えることができます。

2. 社会的信用を確立できる

医療法人の場合、家計と分離して法人会計を採用するため厳格な財務管理が可能になり、金融機関等からの信用が向上し、融資など資金調達がしやすくなります。また、非営利組織という位置付けから、個人クリニックよりも社会的信用の観点で有利となる傾向にあります。

3. 経営体質の強化につながる

積極的な資産活用を促進

クリニックの経営に必要な債務関係の帰属先は医療法人であり、原則的には医師個人で負債等の責任を負う必要がないため、設備投資や資金調達を積極的におこないやすくなります。また、医療法人になると社会保険診療報酬の源泉徴収がなくなるなど、資金繰りの負担が軽減されるメリットもあり、資産の有効活用という面でも後押しされます。

分院展開

幅広い事業展開が可能になる点も個人クリニックとの大きな違いです。さまざまな地域に分院を開設して事業を拡張したい経営者にとって、医療法人化は前提条件となります。

スムーズな事業・資産継承

院長が自身の子など次世代へ事業継承を考えたとき、個人クリニックの場合は一度廃院した上で、継承者が改めて新たに開業・開設の手続きを踏む必要があります。しかし医療法人の場合、診療所開設者の変更は不要であり、継承者を理事・社員に加え、診療所の管理者を変更するだけです。迅速かつスムーズに体制移行を進められます。

さらに個人から医療法人に財産を移すことができるため、資産継承の観点からもメリットがあります。子どもへの医院承継がしやすくなり、将来の相続対策にもつながります。

美容クリニックを法人化することのデメリットと注意点

メリットがある反面、設立・運営にかかるコストは法人化のデメリットといえます。そのほかにも、公共性をもった組織という性質から、次のように管理運営上の負担増加や細かな制限事項などが存在します。

1. 管理運営の煩雑さとコスト負担

書類作成の手間・負担

医療法人は、設立するだけでも申請、決算後の届出・登記などに多くの書類を準備する必要があり、手続きが煩雑です。

設立後も定期的に事務手続きが発生し、少なくとも決算届と資産の総額登記については毎年おこなう必要があります。理事会の議事録なども含めると書類作成の負担は大きく、個人の開業医と異なる点の一つです。

経営品質の管理

医療法人は非営利法人として国民の保健衛生を担うものであり、常に行政庁の監督下に置かれます。個人のクリニックと比べると、都道府県知事による立ち入り検査等の指導が強化される傾向にあります。

2. 厳密な資金管理のための各種制限

経営する医師は、個人の資金と法人の資金とをしっかり分けて管理する必要があります。

開業医時代の借入金(運転資金)の引継ぎ

これはデメリットというよりも注意点ですが、「運転資金」としての開業医時代の借入金は医療法人に引き継ぐことができません。法人設立後は理事長報酬など個人の資産から医師自身が返済しなくてはならず、これが高額なために医療法人化を諦めるというケースも存在します。

資産管理と業務の自由度

個人クリニックでは医師の収入は医業による売上そのものですが、医療法人の場合、医師の収入は役員報酬を受け取る形になります。収入は安定しますが、役員報酬以外の資金は自由に処分できなくなる点が個人クリニックとの違いです。また、付帯業務禁止規定があることで業務範囲についても一定の制限を受けます。

接待交際費の限度額

個人クリニックの場合、経費に認められる接待交際費に上限がありませんが、医療法人は年間800万円という上限が設けられています。さらに、利益積立金額(法人が留保してきた所得の累計額)が一定額を超えてくると接待交際費は全て損金不算入の扱いとなるため、注意が必要です。

小規模企業共済の脱退

小規模企業救済とは、国の機関が運営する個人事業主のための退職金積立の制度です。医療法人になると、原則として小規模企業共済からは脱退しなくてはなりません。

社会保険への加入義務

個人クリニックの場合は正社員が5名未満であれば社会保険加入義務がありません。しかし医療法人では、院長も含めて常勤(労働日数が3/4以上)の従業員に社会保険加入義務が生じます。これにより社会保険料の大幅な負担増加が予想されます。

法人化に必要な条件と具体的な手続き

1. 医療法人化に必要な条件

医療法人の認可基準は、次の「人的基準」と「財産的基準」に大別されます。

人的基準

まず人的基準として、社員は原則3名以上(全員議決権をもつ)で、その中から理事を選任する必要があります。社員とは株式会社でいう株主のようなもので、従業員ということではありません。理事も医師または歯科医師である理事長を含めて3名以上必要で、医療法人が開設する医療機関の管理者は必ず理事に就任しなくてはなりません。

さらに医療法人の理事会に出席し、医療法人の業務や財産状況について監査等をおこなう「監事」を1人以上おく必要があります。監事は医療法人の理事や職員との兼任、また理事の親族や出資社員、顧問税理士、顧問弁護士等の就任についても認められていません。

財産的基準

財産的基準として必要なのは、拠出(出資)財産の確定と運転資金および不動産の確保、債務の引き継ぎです。

一般的に個人のクリニックで使用している医療機器などは、財産として医療法人に拠出するのが望ましいとされています。運転資金に関しては、現金・預金、医業未収金等の流動資産において、原則として年間支出予算の2カ月分を確保することが必要です。

不動産に関しても安定的に医療を提供するため、医療機関が置かれる土地と建物は法人所有であるか、長期かつ確実な賃貸借契約に基づくことが求められます。

医療法人化にあたり引継ぎ可能な債務とは、クリニック開設にあたり金融機関から受けた融資や医療機器のリース契約等です。これらは債権者の承諾が得られた場合、法人に承継されます。ただし、先にも触れたとおり運転資金や消耗品等の取得費は対象にならないため注意が必要です。

2. 医療法人設立までの手続き

医療法人の設立の手続きには、まず医療法人格の「認可」を受け「登記」をする必要があります。その後、医療法人が開設する診療所の「許可」、保険医療機関としての「指定」を受けるという段取りで進めます。医療法人格の認可を得るまでに必要な期間は都道府県によって異なりますが、仮申請から認可まで5ヶ月間程度を要するのが一般的です。

また、申請は随時受け付けているわけではないという点にも要注意です。申請可能なタイミングは年に2回~3回だけですので、手続きをおこなう都道府県ごとに必ず確認をし、申請期間に必要書類が整うよう計画的に準備を進める必要があります。

設立までの手続き:医療法人格の「認可」と「登記」

  • 1.医療法人設立説明会
  • 2.定款(案)・設立趣意書などの作成
  • 3.設立総会の開催
  • 4.設立認可申請書の作成
  • 5.設立認可申請書(仮)の提出・事前審査
  • 6.設立認可申請書の本申請
  • 7.都道府県医療審議会への諮問・答申
  • 8.設立認可書受領
  • 9.設立登記申請書類の作成・申請(8.受領後2週間以内)
  • 10.登記完了・医療法人設立

設立後、実業務開始までに必要な手続き:診療所の「許可」と保険医療機関としての「指定」

登記完了後、医療機関として業務をおこなえるようになるためには、診療所等開設許可申請書と使用許可申請を厚生局・保健所へ提出しなければなりません。個人クリニックからの法人成りの際には、個人診療所廃止届と診療所開設届の両方が必要となります。

そして診療所としての許可を受けた後、厚生局に対して保険医療機関指定申請をおこないます。こちらも個人クリニックからの法人成りの場合には、個人クリニックの廃止届をおこない、改めて指定申請を受ける必要があります。

その他手続き:税務関係・社会保険の届出

税務署と各都道府県税事務所、社会保険事務所等に対して事業開始の届出が必要です。期限が定められているものもあるため、確認して手続きを進めてください。

  • 法人設立届出書(税務署は設立日から2ヶ月以内・各都道府県税事務所には3ヶ月以内)
  • 棚卸資産の評価方法・減価償却資産の償却方法の届出書
  • 給与支払い事務所等の開設届出書
  • 青色申告承認申請書
  • 健康保険・厚生年金保険新規適用届など(社会保険事務所へ)

美容クリニックの医療法人化を検討するのに最適な時期

一般的に医療法人の設立は、個人としての経営が安定してからの申請が前提と考えられています。クリニックを開業してすぐに医療法人の申請をしても、認可はされにくい傾向です。

そのため、実際に申請をおこなうのは経営基盤が整ってからになりますが、なるべく早い段階から検討した方が良いでしょう。できれば開業時点でご自身の事業の目標を設定したうえで、「法人成り」を可能性のひとつとして検討しておくべきです。

法人成りのメリットを享受しやすいのは、事業所得が毎年高額になっている場合事業を広い地域に拡張したい場合、そして事業承継の検討が具体的なケースです。そのため、一般的には経営が順調で働き盛りという30代〜40代の医師や、子どもや後継者の目処が立っている60代の医師などが法人化に向いているといわれます。

節税につながるというイメージが強くありますが、非営利組織という位置付けから医療法人だけに認められた各種制度・規定の範囲内で活動していくことになります。事業を通じて何を達成したいか、どのようなクリニックを作っていきたいか、税務面の優遇措置だけにとらわれず、ご自身がしっかりとゴールを設定し計画的に経営をおこなう姿勢が重要です。

医療法人化は「全ての医師にとって最適な解」ではない

個人でクリニックを経営するのと医療法人する場合の違いについて紹介してきました。医療法人化はさまざまな制度で優遇措置が受けられる点が魅力ですが、全ての医師にとって最適な解とはいえません。

先にも述べましたが、大切なのはご自身が設定したゴールに向けて計画的に経営していくことです。法人化は労力も費用も必要であることから、目先のメリットにとらわれず中長期的な視点で本当に法人化が必要であるか検討し、法人化する場合は最低限満たすべき条件を把握したうえで判断する必要があります。

これから開業する方、法人化を検討中の方は、ご自身のビジョンや将来に向けた展望について改めて考えてみてください。開業後、その事業の成長から終わらせ方まで後悔することのないよう、日頃から顧問税理士ともよく相談しておくことをおすすめします。

記事監修

古高崇幸税理士
古高 崇幸 税理士

こいのぼり会計事務所/こいのぼりコンサルティング株式会社

大手・中小の税理士法人を経て独立。多数の美容クリニックにおける顧問税理士として活躍し、こいのぼり会計事務所の代表税理士を務める。

古高 崇幸先生のいる会計事務所

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